みなさん、こんにちは。会計士・渡邉孝江が聞いてきた!のコーナー第5弾です。
このコーナーでは、私が気になる“ユニークなキャリアを歩んでいる会計士”の方々の仕事やキャリアについてインタビューを行って、みなさんにお届けしています。
渡邉 孝江(わたなべ たかえ)
公認会計士
2012年、18歳で同年度最年少として公認会計士試験合格。2013年、非常勤で監査法人トーマツ名古屋事務所に入所。財務諸表監査、IPO支援などの業務に従事。2016年、公認会計士試験修了考査合格、公認会計士登録。2016年8月より東京に移住し、アンドディー株式会社(旧クラシテク株式会社)に入社。2017年7月に退職後、フリーランスを経て事業再生コンサルティング会社に入社。岐阜県羽島市出身。
参考記事:会計士・渡邉孝江が聞いてきた!
第5弾では、通称「くわえもん先生」こと高桑昌也さんを取材しました。
公認会計士ナビでは「くわえもんの“会計士の悩みはオレに聞け!”」を好評連載中のくわえもん先生。一体どんな人!?
高桑昌也(通称”くわえもん)
株式会社エスネットワークス
グローカル事業本部 公共セクター支援事業部長
公認会計士・税理士
麻布高等学校・慶應義塾大学卒。大学在学中の2000年に公認会計士2次試験に合格。中央青山監査法人、金融庁への出向、都市銀行でのデリバティブ業務を経て現職。さそり座O型。秋田県男鹿半島出身。公認会計士ナビでは「くわえもんの“会計士の悩みはオレに聞け!”」を好評連載中。
趣味:写真、旅行、夜の麻布・六本木
連載記事ではキャリアのことから、プライベートの分野まで様々な質問に回答されていたのがとても印象的でした。
高桑さんは、監査法人、金融庁、都市銀行、コンサルティングファームと非常にユニークなキャリアを歩まれていらっしゃる会計士ですね。本日はそんな高桑さんのキャリア論についてお伺いしていきたいと思います!高桑さん、本日はよろしくお願いいたします。
はじめまして。渡邉さんの連載もいつも見ています。本日はよろしくお願いいたします。
監査だけではキャリアを磨けない!?金融庁への出向
まずは高桑さんのファーストキャリアである監査法人のご経験からお伺いしていきたいと思います。
監査法人でのキャリアは監査業務で1年間、出向先の金融庁で2年間の合計3年間でした。
入社した当時は、ちょうどBIG6の中の青山監査法人と中央監査法人が合併したタイミングで、2つの全く違う組織の雰囲気を感じることができました。
青山監査法人は、外資系のクライアントが多いこともあって外国人のパートナーと一緒に監査をし、業務の中では業務改善のアドバイスをするなど監査以外のコンサルティング業務ができたことが特徴でした。
一方で、中央監査法人は日系企業のクライアントがメインで、監査の手法は昔ながらの「紙調書」で行っていました。
2つの異なる組織を一度に経験できたのはとても良いご経験ですね。監査業務の経験は1年間であれば一般的に短期間だと思いますが、監査業務を一旦やめて、金融庁へ出向することへのためらいはなかったのでしょうか?
ためらいや後悔は全くないですね。当時から会計士としてのキャリアを磨いていくためには、監査業務をするだけではダメだと思っていました。「一人の会計士として何が出来る人材か」「組織がなくなった時に、どんな存在価値で居られるか」と考えたら、監査をするだけではいけないと思っていたんですよね。
そんな時に、ちょうど金融庁の募集があったんです。金融庁の経験が積めるのは良いチャンスだと思い応募しました。
監査法人1年目は目の前の監査の仕事に追われていることが多いのですが、当時からキャリアのことを考えていらっしゃったのがすごいですよね。
あと、せっかく会計士という難関試験を取得したのに監査だけするのはもったいないじゃないですか。せっかく経営学や商法(会社法)を勉強したのに。なので、むしろ監査以外の業務にチャレンジしみたいと思っていました。
おっしゃる通り、試験が幅広い分野から出題されるのに監査だけ行うのは、もったいない気がしますね。出向が実現した金融庁の業務はいかがでしたか?
金融庁の中でも様々な業務があるのですが、私はインサイダー取引や粉飾を取り締まる部署に配属され、インサイダー取引の疑いのある個人やファンドを調査していました。いわゆる「ガサ入れ」部隊です。
ガサ入れは半沢直樹のドラマの中でも出てきましたが、怖いイメージがあります(笑)業務の中で、会計士のスキルはどのように活かされましたか?
家宅捜索するタイミングで現金の流れを通帳や帳簿を見たりして調査するのですが、そこでは会計士のスキルが活かされたと思います。
家宅捜索は毎日実施される業務ではないと思うのですが、捜索以外の日はどのような業務を行うのでしょうか。
そうですね、家宅捜索は3ヶ月に1回くらいで、それまではインサイダーの疑いのある企業や人の調査を行います。その時も、企業の有価証券報告書や現金の流れを見て調査をするので、会計士のスキルはとても役に立ちました。金融庁でも会計士のスキルを最大限活かして業務ができたので、楽しい出向期間でした。
会計士のスキルを他業界で活かす-都市銀行とコンサルティングファームへ
金融庁の出向が終了したタイミングで監査法人を退職され、都市銀行に転職されていらっしゃいますね。
そうですね。監査以外のことをチャンレジしたいと思い出向したのに、帰任して再度監査を行うのは前向きになれなかったですし、他のフィールドでもっとチャレンジしたいと思い退職しました。
それでは、転職先を都市銀行にされた理由は何だったのでしょうか。
都市銀行にした理由は複数あったのですが、昔から「金融」というものに憧れがあったことや、会計士のスキルも活かせるだろうと思い、金融業界である銀行にしました。
会計士のスキルが活かせる領域は様々ですが、都市銀行に目を付けるのはユニークですね。都市銀行ではどのような業務を行なっていたのでしょうか。
デリバティブ全般に関する業務で、シンジケートローンとデリバティブを組み合わせて商品を企画する部門にいました。企画する上で、取り扱うデリバティブ商品がオフバランスされるかどうか(資産として認識するかどうか)に関しては、会計士としてのバリューを発揮しながら業務ができたと思います。
キャリアを考える上で、転職先でどうスキルを活かすことも重要ですが、プラスで何ができるようになったかという視点も重要だと思います。都市銀行で身についたスキルがあれば教えてください。
そうですね。所属していた部門はデリバティブでしたし、デリバティブ商品に関しての知識は監査法人時代より詳しくなりました。
あと、銀行は論理性を大切にする文化だったので、論理的な考え方が身につきましたね。例えば融資の際は、企業と外部環境の分析をして、銀行としてどの程度融資できるか、いくら返済できるのかをストーリー性をもって説明することが重要で、私もそのような論理的に考えるが身につきました。
ただ都市銀行は学ぶことが多かったのですが、より会計士としてのスキルがダイレクトに活きる仕事がしたいと思い、8ヶ月で退職してしまいました。
8ヶ月で退職だったのですね。 結果として短期での退職でしたが、都市銀行に入社したことに対して後悔などはありませんか?
私は都市銀行にいた8ヶ月はとても意味のある時間だと思っていて、入社したことに関して後悔していないですね。むしろ入ってとてもプラスになったと考えています。
現在も業務の関係上で銀行とお付き合いがあるのですが、とても役に立っているんです。例えば、銀行の方に「旧大和なんですね」みたいな銀行の歴史をお話をすると親近感が湧き、信頼性の構築がスムーズにできるんです。だから、短期退職でしたが本当に入社してよかったと思っています。
ただ、退職時のためらいとして「年収が良かったなー」と思うことはありました(笑)
そうだったのですね。ちなみに、ここまで2回転職をされていらっしゃいますが、ご友人や会計士業界の先輩などにキャリアの相談はされていらっしゃいましたか?
していなかったですね。キャリアに迷いはなくいつも突き進んでいましたね。
高桑さんの強い思いや志があるからこそ、悩まずにキャリアを描くことができるのですね。それでは、現職であるエスネットワークスさんの入社経緯を伺って良いでしょうか。
「もう一度会計士としてバリューを発揮したい」と思い都市銀行を退職しているので、会計士として転職することを考えていました。そして、当時の人材エージェントが紹介して下さったのがエスネットワークスさんでした。
入社するタイミングは第2創業期で、これからさらに成長していく段階だったので勢いがありましたし、創業者の佐藤と会って今まで感じたことのないエネルギーを感じ、他社選考を受けることなく入社を決めました。佐藤さんは、会計士なのに事業ができ、見た目は迫力とオーラがあって、今でも尊敬している方です。
経営者の佐藤さんに惹かれて入社されたのですね。入社をして会計士としての再スタートはいかがでしたか。
とにかく私がいることの価値を発揮したかったので、「出来ることリスト」を作って経営陣にプレゼンをし、エスネットワークスの価値向上のために行動していました。
自分がいることの価値の発揮は大事ですよね。出来ることリストで具体的に実現したプロジェクトはありますか。
実現したプロジェクトとしては、 2005年に作った300億円規模のファンドですね。金融庁時代にファンドの調査を行っていた経験と、銀行時代の融資までの意思決定プロセスの知見を活かしました。
コンサルティングファームでファンド運用はとても面白いですね。ファンドの立ち上げ以外では、どのような業務をされたのでしょうか。
エスネットワークスには10年以上在籍しているのですが、実は、ずっと違うことをやってきているんですね。当社の特徴でもあるのですが、様々な事業にチャレンジする機会があって、ファンド運営以外では、M&AやIPO、ファイナンスのアドバイザリーも行っていましたし、2010年からはesリサーチの代表として会計系の教育研修事業を起ち上げたりもしました。
また、個人では、上場企業やIPO準備企業の社外役員なども担当しています。
会計士としてのスキルを最大限活かして、いろいろな業務を担当されていらっしゃいますね。現在の高桑さんの「出来ることリスト」のボリュームが多そうですね。
会計士のスキルを日本の将来のために活かしたい-公会計事業の起ち上げへ
今まで様々な業務を経験してきたのですが、現在は公共事業部の事業部長を担当し、自治体向けのコンサルティングをしています。
自治体向けのコンサルティングをしようと思った理由は何でしょうか。
簡単に回答をすれば、自治体の会計や業務を整えていかないと今後の日本は危ないと思ったからですね。
渡邉さん、少し難しい議論になりますが日本全体のB/S(貸借対照表)を考えてみてください。国のB/S(貸借対照表)はどうなっているのだと思いますか?
資産の方に国や自治体の建物があって、負債に国債があるイメージですね。
そうですね。金額的には、負債1,200兆円、資産が650兆円で実は債務超過(負債の総額が資産の総額を上回ること)なんです。
では、国ではなく地方自治体はイメージ湧きますか?
負債は国と同じように地方債があって、資産の方は同じく建物のような固定資産でしょうか。
そうですね。負債は1,200兆円、ただ資産は金額も勘定科目も不明確のままなのですよね。2015年から自治体の資産を評価しようという動きがあるものの、資産(純資産)がブラックボックスなんです。
しかも民間企業はM&Aや銀行借入で資金を確保したり、企業を存続させたりすることが可能ですが、地方自治体は難しいですよね。私は地方自治体に課題が多くあり、今後の日本のためにも何か施策をしないといけないと思ったんです。
地方が財政難というニュースはよく聞きますが、地方自治体の資産がブラックボックスになっているとは思いませんでした。
財政難も問題ですが管理面にも問題があるんですよね。例えば、水道管の破裂のニュースが取り上げられていますが、あれは何で起きるのだと思いますか?
えっと・・・。修繕がされていないからでしょうか?
そうですね。水道管に関しては、いつ水道管を埋めたか管理されず、修繕を行えず破裂しているんですよね。
このように地方自治体の課題は多くあって、今までの経験や会計士の知見を活かして、地方自治街が永続的に機能するようにしたいと思い、自治体向けのコンサルティングを行っています。
様々なキャリアを歩まれて、現在は日本のために会計士として働かれているのですね。
日本人なら当たり前だと思っています。
自治体も国も財源に悩み、国債・地方債という負債がある中できちんと利回りを払い続けられるかを問うてみると、「なんとかしなければいけない」と焦る気持ちが出てくるんです。今後も、自治体にどれくらいお金や資産があれば日本が継続できるかっていうテーマにしていこうと思っています。
自治体のコンサルティングは、業務の社会性や意義が高くてやりがいがありそうですね。
高桑さんのキャリアは一貫して様々なことにチャレンジしているのが特徴的だと思います。それは何か根元的な思いがあるからだと思うのですがいかがでしょうか。
そうですね。ひとつの組織に所属するのってダメだと思っているからだと思います。
組織人になってしまえば、その組織が潰れてしまえば潰れてしまう。それが嫌なので、チャレンジをして、できることを増やしていって、自分の価値を構築していきたいのです。そうすれば、組織がなくなったとしても自分は生き残っていけます。
そうですよね。ぜひ高桑さんが思う、組織人にならないようにするための秘訣があれば教えてください!
自分の価値を構築するために、主に2つのことが重要だと思っています。
1つ目は、「人と同じことをせず、常に新しいことにチャレンジすること」。新しいことと言っても、経理のルーチンだけを行う場合は会計士の資格がもったいないので、もっと幅広く、難易度の高い業務を行って欲しいと思います。
2つ目が、「他人と競争をすること」。若手であれば競争心を掻き立てるためにも、不安定の道を描くことも有りだと思っています。チャレンジ精神と競争心があれば、マルチに活躍できる公認会計士になれるのではないかと私は思っています!
ありがとうございます!キャリアを考える機会が少ない若手会計士にも響くメッセージだったと思います。本日は本当に貴重なお話をありがとうございました!
私の座右の銘は「為せば成る」。どんどんチャレンジすれば、何とかなります!本日はありがとうございました!