会計ソフト最大手がスタートアップ買収を決断した理由:弥生がMisoca買収で描く世界(前編)

  • 2016/4/26

去る2016年2月26日、会計ソフトシェアNo.1の「弥生」がクラウド請求書サービス「Misoca(ミソカ)」を買収した。

これまでどちらかと言うと日本的で堅実な企業というイメージがあった弥生がM&Aという方法で新進気鋭のスタートアップを買収するというこのニュースは、スタートアップ業界や会計業界に驚きを持って受け止められた。

今回のこの買収にはどのような背景や戦略があったのか?
そして、今後、会計ソフトと士業の関わり方はどうなっていくのか?

弥生の岡本氏、Misocaの豊吉氏に話を聞いた。

 

岡本 浩一郎(おかもと こういちろう)

弥生株式会社 代表取締役社長

1969年、神奈川県生まれ。東京大学工学部を卒業後、野村総合研究所に入社。約7年に渡りエンジニアとして大企業向けシステムの開発・構築に携わった。その間、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)のアンダーソンスクールに留学、MBAを取得。1998年、ボストン コンサルティング グループへ転職し、多様な企業のコンサルティングに携わった後、2000年に起業。設立したリアルソリューションズを通じてコンサルティング事業を展開。2008年4月より現職。弥生ブランドの強化と実績の再成長とを実現している。

 

豊吉 隆一郎(とよし りゅういちろう)

株式会社Misoca 代表取締役

岐阜県出身。岐阜工業高等専門学校 電気工学科を卒業。卒業後Webのシステム開発で独立。個人事業としてWebサービスの開発や売却の実績を積み、2011年6月に株式会社 Misoca (旧:スタンドファーム株式会社)を設立。Misocaのプロダクトオーナーとして世の中のしくみをシンプルにする。 

弥生はいつスタートアップの買収を決断したのか?
-過去にはマイノリティ出資の経験も

弥生にとってM&Aという手法は思い切った決断ではなかったのだろうか?

この問いに対して、弥生株式会社・代表取締役の岡本氏は、「弥生としては買収ありきで考えていたわけではなかった」と語る。

一方で、「弥生にとってM&Aという考えは決して異質なものではなく、外部との連携によって成長を実現するオープンイノベーションの考え方は数年前から社内にあった」とも語ってくれた。

事実、同社は2013年に経費精算アプリStaple(ステイプル)を提供するクラウドキャストに対してマイノリティ出資を行い、2014年には弥生製品と他社サービスとのデータ連携を行えるYAYOI SMART CONNECTというサービスをリリースし、Misocaを始めAirレジやZaimといったWEBサービスとの連携を実現している。

弥生は、「会計」「請求」「給与」など同社の主戦場である領域でクラウドサービスの開発を進める中で、2014年に弥生会計のクラウド版である「やよいの白色申告 オンライン」「やよいの青色申告 オンライン」をリリース。そして、2015年には法人向けの「弥生会計 オンライン」をリリースし、クラウド分野でも業界トップのシェアを獲得する。

同社は、その次のステップとして請求分野のクラウド進出を検討する中で、
「 “弥生としてそもそもマーケットにどのような価値を提供したいのか”というところから考え、自社開発、買収、提携など手法問わずベストな戦略を選ぼうと思っていました。その結果、最終的にMisocaの買収がベストとの結論に至りました。」
岡本氏はそう語る。

弥生をMisoca買収へと突き動かしたのは何か?
-“3つの一致”

とは言え、岡本氏にとって豊吉氏やMisocaは初めて会った時から「気になる存在」ではあったという。

「豊吉さんは最初に会った時から印象に残っていた。正直に言うと、何か縁があれば良いなとは思っていた」と岡本氏はその第一印象を語る。

豊吉さんは自身がフリーランサーとして請求作業に苦労していたという経験にもとづいた問題意識からMisocaのビジネスを始めています。そのため、それを解決するプロダクト作りへのこだわりを明確に持っていました。

起業家にもいろいろなタイプの方がいますが、彼は良くも悪くも地味で真面目なタイプ。ただ、その分、周囲に対するビジネスのウケや見栄えに左右されず、本質的に良いプロダクトを作ることにこだわれる起業家だと思いました。

また、岡本氏はMisoca買収へ至る経緯を振り返って“3つの一致”があったと語ってくれた。

  1. 想い
  2. 実績
  3. ビジョン

の3つの一致だ。

ご存じの読者もいるかと思うが、「弥生」という社名は確定申告や企業の決算期が集中する「3月(弥生)」を意識したものだ。「決算や申告が集中する3月こそお客様を手伝いたい」という想いが込められている。

一方の「Misoca」は請求書を発行する月末を意味する「晦日(みそか)」に由来し、「月末に請求が集中する事業者を手伝いたい」という想いが込められ、実は命名の際に弥生の社名も意識したという。
岡本氏が初対面の豊吉氏に好印象を持ったことからもわかるように、企業としての根本にある“想いの一致”は双方にとって大きかったという。

また、「会計」と「請求」というそれぞれの領域での“実績の一致”も後押しとなった。

岡本氏が初めて豊吉氏と出会った頃のMisocaは、注目を集めるサービスではあったもののいくつかあるクラウド請求書サービスの中で群を抜くほどではなかった。それが出会った当時から1年とわずかで登録事業者数が15,000から88,000へ、月間の請求発行総額が15億円から100億円へと急成長を遂げ、明確なナンバーワンへと成長した。

一方で、弥生は、デスクトップアプリケーションで17年連続の圧倒的No.1を維持し、2015年に初の法人向けクラウドサービスとなる弥生会計オンラインをリリース、2014年にリリースした個人事業主向けでは利用シェアで過半を超えた。「No.1」という実績の一致は両社がタッグを組むに足るものになったという。

そして、両社の背中を押す最も大きな要因となったのが“ビジョンの一致”であった。

共有するビジョンは「中小企業向けEDI構想」

「会計」と「請求」という近接する領域を主力とする弥生とMisocaだが、両社の将来の事業構想は実はそこではなく「中小事業者向けEDI」にあったという。

EDIとはElectronic Data Interchangeの略で、受発注や契約など事業者間の取引に必要なやりとりを電子プラットフォーム上で行う仕組みのことであり、現在では大企業を中心に普及している。

大企業しか利用できていないEDIの仕組みを中小企業も使える一般的なものにしたいと思っていた。

岡本氏と豊吉氏はそう声を揃える。 

Misocaへの「宣戦布告」からの「ビジョンの一致」

この両社のビジョンの一致が判明したのは、偶然にも弥生がMisocaへと“宣戦布告”をしたタイミングであったという。

岡本氏と豊吉氏が初めて会ったのは2014年8月、MisocaがYAYOI SMART CONNECTとの連携を行うに当たっての顔合わせであった。(その際、岡本氏は豊吉氏に対して先述のような好印象を抱く。)

その後、提携のPRを兼ねたイベントへの登壇で親交を深め、その後も両者が顔を合わせる機会が何度かあったという。

何度か顔を合わせる過程で、弥生もクラウドの請求サービスへと進出する意向があることは、豊吉氏に対して伝えており、当時の弥生は会計ソフトのクラウド化に注力しているが、いずれ請求分野に進出するときにはお互いがぶつかるだろうとの話はしていたという。

そして、2015年3月の決算シーズンがひと息ついた初夏のこと、その時が訪れる。

これまで良好な関係を築いてきた両社だったが、弥生がリリースした個人事業主向けクラウド会計サービス・やよいの青色申告 オンライン/やよいの白色申告 オンラインが同年の申告期において高い実績を出したこと、また懸案だった法人向けクラウド会計サービス・弥生会計 オンラインのリリースにも目処がたったことから、弥生はクラウド請求サービスへの進出を本格的に検討し始める。

岡本氏としては、これまで友好な提携関係を築いてきたMisocaに対して礼儀を通すべく豊吉氏を食事に誘い、請求オンラインへの進出の意向を伝えたという。

「その時のことはよく覚えている」と豊吉氏は語る。

弥生のクラウド請求サービスへの進出を聞いた時は、特に驚くことはありませんでした。いずれ進出してくるのはわかっていましたし、当社の技術力や開発スピード、これまでの実績を考えれば簡単に負けるわけはないし、当然、Misocaが勝つつもりでやると考えていました。

しかし、豊吉氏にとって衝撃的だったのは岡本氏が次に語った請求書後の構想、

中小企業向けEDI構想

だった。

Misocaは中小事業者のための取引プラットフォームを目指し、請求書に加え見積書や納品書の管理、オンラインでの請求書に対する支払い(WEB決済)、そして、Misoca上から受発注管理が行える機能を開発してきていました。請求書に関しては弥生も進出してくると思っていましたが、まさかEDIまで構想に入っていたのか…と驚きました。

と豊吉氏は振り返る。

会計、請求だけではなく中小事業者の取引プロセスをオンラインで完結・効率化させる。

このEDI構想について岡本氏、豊吉氏はそれぞれこう語ってくれた。

EDIは90年代初頭からある概念であり、2000年代に導入が始まり、大企業やその系列会社ではEDIを通じて受発注など商取引が電子データとして管理・やりとりされています。ところが、中小企業の世界にはまったく降りてきておらず、アナログなやりとりになっている。

実は中小企業向けEDI構想については当社内でも2009年頃には既に言及していたのですが、近年のクラウドサービスの普及を見て、ついに実現できる時代が来たと感じていました。ただ、実現できる時代が来ている分、早く取り組まなければならないという危機意識もありました。

-弥生・岡本氏

中小企業向けEDIは当然普及するものだし、いずれ誰かがやるものだと思っていました。

けれども、今の時代になってもまだ誰もやっていない。それであればMisocaがやろう、クラウド請求書からスタートして、受発注や決済なども完結できるサービスを提供しよう、そう構想しMisocaの開発を進めていました。

ただ、中小企業マーケットは多様で攻略は簡単ではない。Misoca単独でどこまでいけるのかというのが唯一の懸念でした。

-Misoca・豊吉氏

「Misocaと組めばEDI構想の実現が大きく早まるのでは…」

「弥生と組めばEDI構想が実現できるのでは…」

両社の思惑が一致した瞬間だった。

弥生とのシナジー
-Misocaができなかったことができるように

Misocaが弥生の傘下に入り1ヶ月が経過したが、豊吉氏は「戦略自体はあまり変わらない。Misoca単独ではできなかったことで弥生の力を借りればできることがたくさんあるのがわかってきた」という。

Misocaは卓越したWEBマーケティングでネットへのリテラシーの高い層を中心にユーザーを増やしてきたが、弥生にはコールセンターによるカスタマーサポートや弥生PAPという会計事務所ネットワークがあり、WEBマーケティングではリーチできない層へのコンタクトが可能となった。

また、税制改正への対応といったこれまでかなりのパワーを必要としていた部分に関しても、弥生が培ってきた税務・法務ノウハウが利用できるのはMisocaにとって大きなメリットだ。

ここからが出発点、100%本気でぶつかっていく

今回の決断に関して豊吉氏は「自分にも、経営者、起業家、株主といろいろな立場があったので、決して簡単な決断ではなかった。」と振り返る。

ただ、今回の交渉が進む中で弥生の事業計画を初めて見た時に、Misocaの計画が見られていたんじゃないか…と思うくらい当社の構想と似ていて驚くとともに、これを一緒にやれたらいいなと素直に思いました。

ポジティブに考えれば、弥生ブランドをうまく使わせてもらって今まで以上のユーザーが流入してくれるかもしれません。ただ、僕たちの目指すものはそんな程度ではありません。100%本気でぶつかった先に良い物ができ、実績も出る、そう言った覚悟でやりたいと思っています。

今回が出発点、いい状態でスタート台に立てていると思います。

Misocaのビジョンの実現はいよいよこれからです。

弥生とMisocaは同じ未来を見据えている。

弥生会計×クラウド請求書サービスMisoca

後編はこちら→会計ソフトは消え、コマースソフトへと進化する!?会計士や税理士の未来とは:弥生がMisoca買収で描く世界(後編)

(終)

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