みなさんは公認会計士という資格に縛られてしまってませんか?
公認会計士の資格をうまく使うことによって、資格にしばられない自由にキャリア設計もできるはず。そういったテーマのもと、去る11月12日(土)、東京都千代田区にて有志の若手会計士3名によるトークイベントが開催されました。イベントには20数名の若手会計士のみなさんが参加。公認会計士ナビもご招待頂きましたので本記事ではそのイベントの模様をお伝えします。
【イベント概要】
資格に縛られていませんか?〜会計士だからこそできる自由なキャリア&人生設計〜
- 開催日:2016年11月12日(土)16:00〜18:30
- 参加者:公認会計士・試験合格者20名
- 場所:東京都千代田区飯田橋
- Facebookイベントページ:https://www.facebook.com/events/108385912968714/
企画・運営は3名の若手会計士
今回のイベントは以下の3名の若手会計士によって企画・運営されました。
登壇者
登壇者はおふたり。
ひとりめは、森下 直也(もりした なおや)さん。大手監査法人出身の公認会計士ですが、監査法人を退職し、現在は外国人向けの寿司作り体験教室を運営されています。
森下さんの運営する寿司作り体験ツアーのサイトはこちら。
→ http://www.tokyo-sushi-making-tour.com/
森下 直也(もりした なおや)/公認会計士・寿司講師
1987年12月13日生まれの28歳、2008年、公認会計士試験合格。慶應義塾大学卒業後、有限責任監査法人トーマツ入社し、会計士として社会人の一歩を踏み出す。入社3年目の25歳のときに、仕事のやりがいや働き方への疑問を持ち始め、会社の休みを利用して海外ボランティアや外部セミナーなどに参加する。社外の世界を知り、自分のやりたいことを実現して生きている大人が沢山いることに気付き監査法人の退職を決意する。
ただ、退職時点では「やりたいこと」は定まっておらず、次の職も決めずに、1年間かけて死ぬまでにやってみたいことにひたすらチャレンジする。
その中で、4日間の寿司作り体験教室に興味本位で参加する。思いがけず、この時の寿司体験の感動が心のワクワクのスイッチを押すことになる。この感動を世界に伝えたいと思い外国人向けお寿司作り体験ツアー「Tokyo Sushi-making Tour」を2013年10月に立ち上げる。当ツアーは、立ち上げから2年半で3,000名を超える外国人が参加し、世界最大の旅行口コミサイトTripAdvisorよりCertificate of Excellenceという魅力的な観光施設に贈られる賞を2年連続で受賞している。
一方で、寿司講師以外の時間には、会計士としての仕事にも従事する。会計士と寿司講師という異なる領域の仕事を同時にすることでライフスタイルを自由にコントロールし、好きな人と好きな時間に好きな事をできるワクワクできる環境を作り出している。
ふたりめは、菊池 諒介(きくち りょうすけ)さん。
外資系金融機関にて生命保険を販売するライフプランナーです。会計事務所勤務から、営業出身者が大部分を占めるライフプランナー職へと転身しご活躍されています。
菊池 諒介(きくち りょうすけ)/公認会計士・ライフプランナー
1988年7月9日生まれの28歳。埼玉大学在学中の2010年に公認会計士試験合格後、新卒から3年間、会計事務所で税務を中心に申告業務、コンサルティング業務等に従事。当初から独立を見据えて社外での交流を積極的に図りキャリアを模索するなかで、とある人のご縁でライフプランナーという仕事に出会う。
営業畑出身者がほとんどを占める保険業界で、会計士の目線を活かし知的専門職として多くの人のライフプラン設計に携わる仕事に大きな可能性を感じ、転職を決意。
以後、初年度から全社コンテストである社長杯入賞を果たすなど順調に実績を重ねる。
その過程で多くの若手会計士と接点を持つも、将来を不安視する声の多さに触れ、本業の傍ら公認会計士協会青年部や会計士のプロボノ(専門性を活かした社会貢献活動)を推進するNPO団体Accountability for Changeに所属し会計士のキャリア支援にも取り組んでいる。
ファシリテーター
そして、イベントの司会・進行を務めるファシリテーターは、大手監査法人勤務の横山 正宏(よこやま まさひろ)さん。
今回は司会・進行役の横山さんですが、実はご自身も監査法人に務めながらプロボノとして、児童養護施設支援を行うNPO Living in Peaceの理事としても活躍されているというユニークなキャリアの持ち主です。
ブログも書いておられます→ https://note.mu/yokoyan28
横山 正宏(よこやま まさひろ)/公認会計士
1990年2月28日生まれの26歳。2012年、公認会計士試験合格。早稲田大学を卒業後、2013年に有限責任監査法人トーマツに入社。監査業務・内部統制コンサル業務・リファーラル業務などに従事。
仕事に余裕が出てきたことを契機にして、2015年1月に子どもの貧困削減を目指すNPOであるLiving in Peaceに、プロボノとして関わり始める。プロボノを始めた当初は本業との両立に苦しんだが、業務の効率化や周囲の理解により、「監査法人で働きながら、社会を変える」というスタイルを確立。2016年3月には、Living in Peaceの会計担当理事に就任し、「監査法人で働きながら、NPOの理事として活動する」という監査法人では前例のない働き方に挑戦中。
また、プロボノによってイキイキと働けるようになった自身の経験を次世代の会計士に伝えるため、Accountability for Changeにて、プロボノ勉強会やNPO法人会計研修など、若手会計士向けの研修講師を行っている。
やりたいことを全部やって一番心に響いたのが寿司講師 -森下直也さんのケース
監査法人に40年勤めるつもりだった
現在は「寿司講師」と「公認会計士」という2足のわらじで活躍する森下直也さん。森下さんの主催する寿司作り体験教室には、これまでに累計で3,000名が参加し、その9割以上が外国人だそうです。
そんなユニークなキャリアを歩む森下さんですが、当初は、多くの公認会計士がそうであるように、大手監査法人で監査業務を行っていたそうです。父親もサラリーマンであり、大手監査法人に入所した時は「40年勤めるつもりだった」とのこと。
しかし、監査業務にも慣れてきた頃、「自分が本当にやりたいことは何かわからず、すごい悩んだ」と語りました。
最終的には、「いろいろ考えたけどわからなくて、最終的には思い切って監査法人を辞めてみよう、1年間好きなことだけをして生きてみよう」と考え、監査法人を3年で退職した森下さん。やりたいことを見つけるために自身が死ぬまでにやりたいと思ったことを全部リストアップしてひとつずつ潰していったそうです。
その過程で、寿司を作ってみたいとの希望を叶えるべく、寿司作りレッスンを受けてみたところその面白さに目覚め、ちょうど海外から帰ってきたところでもあったため「これを英語で外国人向けにやれば面白いのでは!?」とひらめき、外国人向け寿司作りツアーを自ら行うことにしたとのこと。
「やりたいことがわからない中、いろいろやってみて寿司作りがいちばん心に響いた。だから寿司講師を選びました。」と森下さんは語りました。
公認会計士資格のおかげでやりたいことができた
そんな森下さんですが、「やりたいことがてきたのは会計士資格のおかげ」とも語りました。
現在は、平均すると月10~15日程度は寿司講師の仕事を行い、同じく月10〜15日は監査法人の非常勤会計士(正社員待遇)として監査の仕事を行っているそうです。(監査は繁忙期と閑散期がありますので、年平均でならした数字です。)
「寿司講師をやろうと思った時は、これ一本でやろう!すぐうまくいく!と思っていましたが、当然、そんな簡単にうまくいくわけはありませんでした(苦笑)」と、森下さん。
最初は派遣社員で経理などの仕事をして食いつなぎながら、知り合いの紹介などで徐々に寿司作り教室の仕事を増やしていきましたが、その過程で縁あって監査の非常勤の仕事をスタートしたとのこと。これにより収入が安定し、寿司講師の仕事により力を入れられるようになり、現在のようにやりがいと収入の両立を実現したそうです。
また、さらなるチャレンジや事業への投資もできるようになり、近々、オーストラリアに寿司講師ツアーに出かけることも計画中だと語りました。
会計士とライフプランナーの掛け合わせで一流を目指す-菊池諒介さんのケース
外資系生命保険会社でのライフプランナー職として活躍する菊池諒介さん。
「ライフプランナーと言うとカッコよく聞こえるかもしれませんが、営業職として保険商品を販売していく仕事でもありますから、会計士が飛び込むには大変な仕事でした」とのこと。そんな菊池さんですが、ライフプランナー職においても、森下さんと同様に会計士資格が大きな武器になったと言います。
会計士になった当初は独立志望だった菊池さん。会計士試験合格後は独立を意識して小規模な会計事務所への就職を選びます。
そして、会計事務所時代にはできるだけ多くの人に会おうと、たくさんの経営者や公認会計士と会ったそうです。
そんな中で感じたのが「会計士には本当に優秀な人がたくさんいて、そんな人たちの中で“会計”や“税務”を武器に勝負して良いのだろうか。M&AやIPOでトップをとれるのだろうか。」ということでした。
そんなことを感じながらいろいろな人に会い続けた菊池さんですが、知り合いの紹介で現在勤務する保険会社の方に会うこととなります。
最初はライフプランナー職にはまったく興味がなかったそうですが、話を聞いているうちに、「いろんな人に会える」という自分が好きなことを仕事にできる、自由度の高い勤務スタイルであり報酬も頑張った分だけ自分に返ってくる、など独立に近い形でありやりたいことができる仕事である点に魅力を感じるようになったと言います。
最終的に「ゼロから独立するよりも良さそうだし、いろんな人に会いながら、自分自身もお客さんと一緒に成長していきたい」と考え、ライフプランナーへのキャリアチェンジを決めたそうです。
会計士の中にいると気づけない会計士のすごさ
ライフプランナーという仕事に飛び込んだ菊池さんですが、「会計業界から外に出たことによって、会計士の評価が高いことに気づいた」と語りました。
ベテランの人も多いライフプランナー業界で、若いゆえに初対面での信頼が得にくいこともあるという菊池さん。自己紹介の際に名刺に「公認会計士」と書いてあることによって「若いのに公認会計士なんですね!」と言われることも多いそうです。
「会計業界にいると、まわりがみんな会計士なのでわかりませんでしたが、外に出てみると会計士は社会的信頼を感じてもらえる資格なんだと実感します。営業の世界では若いと頼りなく見られることも多いのですが、会計士資格のおかげで“若いのに会計士なんてすごいですね!”と若いということが逆に強みになっています。」
そんな経験を通じ、今では“公認会計士”と“ライフプランナー”の掛け合わせをアイデンティティとし、ライフプランナーとして一流を目指すべく日々努力しているとのこと。
また、菊池さんは、「会計士には、公認会計士であることによって”すごい会計士”に会いやすいというメリットもある」と語ります。
これまでいろいろな人と会ってきた菊池さんですが、公認会計士は相手が会計士とわかると親しくなりやすい傾向があると感じているとのこと。
菊池さん自身も、CFOとして活躍されている会計士や独立して成功している有名な会計士など、普通なら簡単に会えないであろう人たちに時間をとって話を聞かせてもらえたことがあるそうです。
「会計士は会計士に対してとても親切で、お互いに助け合うような文化があると思います。
知らない人にアポイントをとったり会ったりするのが苦手な人もいると思いますが、もし、キャリアの悩みがあるならまずは身近な先輩や友人会計士にそれを発信するのが良いと思います。
そうすれば、きっと誰かが相談にのってくれたり、悩みの解決につながる人を紹介して貰えたりすると思います。」
と参加者にアドバイスを送りました。
仕事の満足度は?収入は?不安はないの?
人生の満足度は高い!今のキャリアで得たもの
トークセッションでは、モデレーターの横山さんがチョイスした参加者からの質問を受けながら進められ、ふたりの価値観やキャリア観についても掘り下げられました。
このトークセッションを通じて、ふたりには「自由な時間が増えたこと」「会計士資格がチャレンジの支えになったこと」などいくつかの共通点があることが見えてきました。
【自由に使える時間が増えた】
今の仕事に就いたことによって得たメリットとして、ふたりが揃って挙げたのが「自由な時間が増えた」ということでした。会社に拘束される時間や通勤時間(特に満員電車での通勤)など、そういったストレスから開放され、自分がやりたいこと、やるべきことに時間を使えるようになったと言います。
一方で、「時間は有限である」ということも強く意識するようになったとのことで、時間の大切さやいかに有効に時間を使っていくかは常に心がけているそうです。
【仕事とプライベートの境目がなくて疲れないの?】
時間を自由に使える一方で「仕事とプライベートの境目がなさそうで疲れないのですか?」という質問には、そもそも楽しいと思える仕事をしているとプライベートとの境目があまり気にしなくなる、また、自分で予定をコントロールできるので疲れた時に自由に休みを入れられるのが大きなメリットでもある、とふたりは語りました。
森下さんに関しては、疲れたときには必要に応じて平日丸1日を休みにしてしまうこともあるとのこと。また、監査はオフィスワークで、寿司講師は肉体労働(立ち仕事)のため、運動不足の解消にもなり、肉体面でのバランスが良いと感じているそうです。
菊池さんの場合は、いろいろな人と知り合えること自体が楽しく苦痛にはならないのと、また、保険の相談はプライベートな友人から来ることもあるため、プライベートが仕事につながるメリットもあると感じているとのこと。実際、自身が公認会計士であることから、会計士の生活やお金の悩みをよくわかってくれるライフプランナーということで、会計士のお客様も多いそうです。
【今の仕事に転職して困ったこと】
逆に、今の仕事に転職して困ったことについても語ってくれました。
ふたりに共通していたのは、専門知識のキャッチアップにパワーが必要になったということ。以前は所属する会社が提供してくれていた研修やナレッジ、森下さんの場合は監査に必要な会計の知識を、菊池さんの場合は保険に必要な税務の知識を、主体的に取りに行かなければならなくなったということです。やはり組織に所属していることによって享受できるメリットもあるようです。
また、森下さんの場合は大手監査法人に勤務していたことから、同期のコミュニティから離れているのは少し寂しいと感じることもあると語りました。
【収入面での不安は?】
ふたりは多くの人が気になるであろう収入面についても語りました。
森下さんは、監査法人退職時は収入が激減し苦労しましたが、非常勤の監査業務を始めたことにより安定。現在では、寿司講師としての仕事も軌道にのり、それをさらに拡大させるべく動いていますが、収入が厳しかった時には「究極的には世界のことを考えた」と語ります。
「世界を見れば僕たちよりはるかに少ないお金で生きている人たちがたくさんいます。そうゆう人たちから見れば、僕たちが少ないと思っている収入は決して少なくないし、これだけ収入があればなんとかなる、収入が厳しかった時はそう考えるようにしていました。」
また、独立すればやりたいことにも収入にも無限の可能性があるとも語りました。
「サラリーマンは収入は安定しているが、上限は有限。例えば、年収1,000万円くらいが上限の目安になります。けれども、独立して事業をやると最初は不安定ですが、収入の可能性は無限だと感じます。」
一方で、保険会社に所属するものの、報酬体系は業績連動であるライフプランナー職を選んだ菊池さん。やはり不安は大きかったそうですが、「一瞬苦しい時期があるかもしれないが、会計士資格があるからなんとかなるはず」、そう思って現職に飛び込んだそうです。
「会計の仕事は収入が急に大きく上がることはないですが、逆に大きく下がりにくいというメリットもあります。そこに未練がなかったというと嘘になりますが、努力した分返ってくる点に魅力を感じたのと、もし失敗しても会計士ならきっとリカバリーが効くはず、そう思って決断しました。」
イベント後半は寿司作り体験やワークショップを開催
イベントの後半では、参加者によるワークショップが開催されました。
ワークショップでは「会計士のいろんなキャリアを考えてみよう」ということで、グループに分かれてそれぞれの思い描くユニークな会計士像とその実現方法を話し合い発表。さまざまな会計士像が発表されるなかで、「会計士 ×住職」「会計士×思想家」などユニークなものも見受けられました。
そして、その後は森下さんによる寿司作り体験教室。
寿司に関するクイズから始まり、森下さんのお手本を見ながらみんなで実際にお寿司を握って会場は大盛り上がり。参加者全員で寿司づくりを楽しみました、
会計士試験に受かったときの嬉しかった気持ち、ワクワクした気持ちを忘れないで欲しい
イベントの最後には森下さん、菊池さんのふたりから参加者へのメッセージが送られました。
自分でハードルを高くしない、最初の1歩は小さくていい-森下さんからのアドバイス
自身の今後について、「海外で寿司作りを教えたい」と語った森下さん。現在、オーストラリアでの寿司教室ツアーを企画中ですが、最終的には寿司作り教室に来てくれたお客さんを訪ねて世界をまわる旅をしたいとその夢を語ります。
また、参加者の会計士に向けて「会計士は何かしようと思った時にいろいろとリスクを考えて自分からハードルを高くしてしまいがち。まずは行動してみよう。」と呼びかけました。
「最初の1歩を大きなものにしない。まずは小さくていいからやってみることが大切。」
「相談する人を間違えないこと。特に批判的な人には相談しないこと。ポジティブなアドバイスが貰えない。」
「もしかしたら今日死ぬかもしれないと考えてみよう。やりたいことをすぐやらないと後悔すると思えるはず。」
とこれまでの経験から学んだことを会場の会計士たちにアドバイスとして送りました。
会計士試験に受かった時の気持ちを忘れない-菊池さんからのアドバイス
「会計士×ライフプランナーとして突き抜けた存在になりたい」と将来の目標を語った菊池さん。お客さんである企業やその経営者、士業みなさんのハブとなって、そういった人たちをつないでいけるライフプランナーになりたい。保険の税務や会計を極めていきたい。」と目標を語りました。
「会計士という資格に囚われすぎることなく、もっといろんな会計士がいても良いと思うし、そういった会計士を増やしたい」と語った菊池さん。
会計士とのかけ合わせ方には、ライフプランナー職に税務会計の知識が役立つように相乗効果で活かす方法、そして、寿司講師を実現した森下さんのようにやりたいことと並行して会計士資格を走らせる方法のふたつがあるとアドバイスを送りました。
そして、最も伝えたいこととして、「みんな会計士試験に受かった時は嬉しかったはず。その時のわくわく感を忘れないで欲しい。あの時の気持ちを思い出して踏み出してみよう」とエールを送りました。
以上、今回のイベントレポートでした。
もし今のキャリアに悩まれている方がおられましたら、森下さんや菊池さんからのアドバイスのように、会計士資格の可能性を信じてまずは何か行動してみるのは良いかもしれませんね。