9月7日から24日にかけて、監査改革に関連したニュースが複数リリースされています。企業会計審議会による会計監査制度の見直し、監査報告書の改正に関する記事をご紹介します。
監査法人と企業のなれ合い排除。制度変更求める
•「なれ合い監査」見直し始まる 金融庁、東芝問題契機に (日本経済新聞 2017年9月8日付)
平成15年改正公認会計士法で、監査人の独立性を確保するためにローテーション制度が取り入れられましたよね。導入当初は、監査法人と企業のなれ合いが排除できる画期的な制度として、実効性が期待されていました。
ですが最近の東芝事件などを受け、同一監査法人内でローテーションを行っても、効果が上がらないという見方が出てきたようです。
企業会計審議会の会計監査の見直し議論に関する記事が、日経新聞より出ています。
会計監査の見直し議論が8日、始まった。金融庁は同日午前、企業会計審議会(金融庁長官の諮問機関)を開き、監査基準の改定や監査法人の交代制を今年度の議題とすることを公表した。会計監査の質を高め、企業とのなれ合いを排除して監査法人の独立性を高めることを目指す。相次ぐ会計不祥事をきっかけに始まった会計監査改革が実行段階を迎える。
引用元:「なれ合い監査」見直し始まる 金融庁、東芝問題契機に (日本経済新聞 2017年9月8日付)
記事によると、企業会計審議会は「監査法人の交代制」の導入を検討しているようです。
もし監査法人ローテンション制度が導入されると、前任の監査法人と被監査会社の間では会計事象の発生タイミングや会計基準の解釈など合意が出ていたものも、後任の監査法人がみたときに問題となる可能性があります。
監査法人があからさまに反対することはないとしても、リスクやコスト面から産業界からの抵抗は必至です。
監査は誰のためのものか問う
•監査改革に投資家の視点を(日本経済新聞 2017年9月24日付)
特別な問題がなければ、監査報告書はどれも同じ文言が書かれています。企業の財務内容を詳しく知りたい投資家には、監査報告書は投資の判断材料としては不親切ですよね。
そんな投資家の方に朗報です。従来の「情報提供は被監査会社が行い監査法人は判断だけ」という制度に、改革が起きようとしています。
企業会計審議会の会計監査の見直し議論で、監査報告書の抜本的な改正が議題になっていることが、日経新聞の記事で出ています。
ひとつは監査報告書の内容を充実させることだ。現在は監査法人が報告書に「適正」や「不適正」といった結論だけを記載する。企業買収から生じる「のれん」の減損や、訴訟で抱えうる賠償の負担といったリスクに関する言及はなく、投資家は監査の実態がつかみにくかった。
引用元:監査改革に投資家の視点を(日本経済新聞 2017年9月24日付)
記事では、日本の監査制度が国際的に見劣りがしない水準になるために、見直しには市場関係者や世界中の様々な投資家らの幅広い意見を反映させるべきだとしています。
監査法人にとっては責任重大ですが、日本の監査制度が信頼性を取り戻す最後のチャンスかもしれません。徹底的に議論して市場の期待に応えてもらいたいところです。
監査法人の意見が投資情報に。
•監査報告プロセス開示へ 相次ぐ会計不祥事 20年めど、投資家に判断材料(日本経済新聞 2017年9月7日付)
監査報告書は結論だけが記載されていますが、そこに至るまでに無数の監査証拠の評価や判断が繰り返されていますよね。「結論に至るまでの過程や監査法人の意見も知りたい」という投資家の希望がかなえられることになりそうです。
企業会計審議会が行う会計監査改革のうち監査報告書の改正に関する記事が、日本経済新聞より出ています。
監査法人が企業の財務諸表にお墨付きを与える監査報告書が変わる。現在は財務諸表がルールに合っているかを4段階で評価するだけだが、2020年3月期をめどに監査プロセスの開示や会計士の意見を加える。会計不祥事が相次ぐなか、「監査の見える化」を進め、投資家が受け取る情報の信頼性を高める狙い。
引用元:監査報告プロセス開示へ 相次ぐ会計不祥事 20年めど、投資家に判断材料(日本経済新聞 2017年9月7日付)
記事によると、細かいルール作りはこの秋から始まるとのことです。早ければ2年後に導入されるかもしれないこの制度。投資家の判断材料として有用な情報開示はされるのでしょうか。
金融庁が考える会計監査改革とは
金融庁は、9月8日に行われた企業会計審議会総会の配布資料を、報道発表資料として公表しています。今回、日本経済新聞の記事で取り上げている会計監査改革に関する資料はこちらです。
•企業会計審議会総会資料の公表について(金融庁 2017年9月8日付)
資料によれば、監査法人ローテンション制度は、EUが2016年6月から先行実施しているものの導入による混乱は見られていないという調査報告がされています。今後は、監査法人・企業・機関投資家等の関係者からのヒアリング等を実施しながら、調査・検討が進められていくことになりそうです。
また、監査報告書の透明化については、先行しているイギリス・EU・アメリカ等諸外国の導入状況について報告されています。国際水準の開示をするのか、実務上の課題を含めて検討が進められます。
(ライター 大津留ぐみ)