バブル崩壊後の1990年代後半の疲弊した日本経済の中で「企業再生」という新たな分野が登場し、現在ではコンサルティング、ファイナンス分野のひとつのジャンルとして定着しています。
主に財務状況に問題を抱えた企業をターゲットとすることが多いこの分野は、公認会計士がそのスキルを活かせるフィールドでもあります。
一方で、一口に「企業再生」と言っても、その手法や再生スタンスによっていくつかに分類され、公認会計士の採用可能性や身に付けられるキャリアも異なってきます。
記事目次
企業再生コンサルティングファームへの転職の傾向
企業再生は不況下には人気の転職先となり、求人数も増加する傾向があります。
企業再生はその特徴によって複数に分類され、いずれの分野なのかによって求められるスキルや素養、選考難易度も異なってきます。転職市場において、企業再生コンサルティングファームをキャリア視点で分類した場合、主に下記の4分野に分類されます。
企業再生ファームの分類
1.総合型
2.FAS型
3.法律支援型
4.財務・資金調達支援型
総合型
戦略・マーケティング・経営管理・財務・人事・法務など経営を総合的に支援し再生を実現するファームであり、戦略系コンサルタント、キャピタリスト(投資ファンド出身者)、金融機関(銀行、投資銀行等)出身者、士業などの有資格者(弁護士、公認会計士、税理士)、事業会社出身者(経営企画、経営管理)など様々なバックグラウンドを持つ人材で構成されます。
これら総合型のファームは企業再生で有名ですが、経営コンサルティングのノウハウを総合的に有しているため、取り扱う案件は必ずしも再生案件に限りません。
代表的な総合型のファームには、経営共創基盤、フロンティア・マネジメント、山田コンサルティンググループ株式会社(旧:山田ビジネスコンサルティング)などがあり、2000年代前半に日本経済活性化のために設立された産業再生機構(既に解散済み)なども同様の形態でした。コンサルティングと言う形態ではなく、経営権を取得して企業再生に取り組む「企業再生ファンド」の場合も同様に総合的な支援を行う傾向にあります。
同分野は、ファイナンスだけでなく、戦略やマーケティングなど幅広いジャンルの経験を積むことができるため、経営マネジメントにキャリアを広げたい公認会計士には魅力的な分野ですが、会計・財務の範囲を超えた業務を含むため、選考ハードルは高く内定を勝ち取るのは容易ではありません。
FAS型
財務DDやリスケジューリング、再生・事業計画の立案支援などを中心に、財務・会計面からの企業再生をメインとするファームであり、主に公認会計士や監査法人、大手金融機関出身者などで構成されます。
大手では、BIG4監査法人系列のFAS(ターンアラウンド部門やリストラクチャリング部門)が代表的なプレーヤーであり、独立系や中堅の会計ファームにもプレーヤーは多数見受けられます。また、公認会計士業界では、2~3名の少人数のファームでもFAS型の再生業務に取り組んでいるところも見受けられます。
主な支援先としては、売上高数億円~2桁億円前半程度くらいまでの小規模企業が多い傾向にあり、いずれのファームも主に公認会計士中心で構成されることが多く、企業再生の分野では公認会計士が最も転職しやすいフィールドと言えます。
また、近年では、財務会計面での支援からさらに経営や経営管理に踏み込んでの中長期で中小企業の成長支援や、事業承継やM&Aのアドバイザリーなど再生+αの支援を行うFAS型ファームも出てきており、代表的なファームとしては、わかば経営会計、J-TAP Group、ロングブラックパートナーズなどが挙げられます。
法律支援型
法律事務所など法律面からの支援をメインとするファームを指します。主に弁護士が活躍するフィールドであるため、公認会計士の転職先としての可能性はほとんどありません。
財務・資金調達支援型
資金繰りや財務体質の改善、事業計画の策定、金融機関との交渉支援など、資金繰りや資金調達の支援をメインとし銀行出身者などで構成されるファームです。資金繰りに苦しむ中小企業をターゲットとすることが多く、財務リストラ、キャッシュフローの黒字化などを行います。
銀行出身者や中小企業診断士で構成されるコンサルティングファームや会計事務所や税理士事務所でも税務サービスと並行して同様のサービスを行っているところもあります。
中小企業の経営支援に憧れる公認会計士も多いですが、経営難の中小企業を支援する形態から、クライアントに対するフィーも低く、年収水準の高い公認会計士は採用対象となりにくいことが多いのが実情です。
企業再生コンサルティングファームの年収
総合型
ファームやポジションによって異なりますが、職位ごとの年収を比較すると、BIG4監査法人の監査職より100万円~200万円高い水準にあり、管理職(マネージャー)以上になると、200万円~300万円高いケースも見受けられます。但し、監査法人から初めて転職する公認会計士の場合、業界未経験のため監査法人での職位よりダウンして採用されることも多く、年収は現状維持かダウンとなるケースもあります。
また、一般的に激務であることも多いため、年収が監査法人と同等もしくはアップした場合でも、時間当たりの給与は下がっていることも少なくありません。
FAS型
BIG4 FASでの年収は、BIG4監査法人の監査職より100万円から200万円程度の範囲で高い水準にあります。(ただし、残業量や賞与等によっても異なります。)
また、公認会計士を中心とする中小・独立系FASでの年収は、ファームによってケース・バイ・ケースとなりますが、BIG4監査法人の監査職と同等程度の水準は確保できることも多いです。
財務・資金調達支援型
年収400万円~600万円程度が基本です。若手ジュニア層(20代半ば、経験3年程度)で400万円~400万円代後半程度、シニア層(30歳前後、経験5年程度)で500万円~600万円程度が目安になります。
企業再生コンサルティングファームでのキャリアの特徴
総合型の再生コンサルティングファームは、財務分野以外に経営管理、戦略、マーケティングなど経営全般にまたがる幅広い分野での経験を積むことができます。
一方で、監査法人や会計ファームと比較して、厳しい風土であることが多いです。特に、戦略やマーケティング、法務、経営管理などファイナンス分野以外の知識・見識も要求されるため、公認会計士においては、いかに幅広い視野や見識を有し、それらに適用できる柔軟さを持っているかが重要となります。また、監査法人やFASの場合と異なり、管理職となると高いレベルでの部下やプロジェクトのマネジメント力を身に付けることも求められます。
総合型再生ファームを経た場合の将来のキャリアとしては、経営コンサルタント(独立含む)、投資ファンド、事業会社(CEO、CFO、ボードメンバー、経営企画、財務など)が想定されます。
FAS型の再生コンサルティングファームの場合、財務デューデリジェンスやリスケジューリング、事業計画立案など財務や会計分野を中心とした経験を積むことができます。将来のキャリアとしては、FAS、投資ファンド、事業会社(CFO、財務、経営企画など)、独立などが想定されます。
また、企業再生支援においては地方企業の再生業務も多いため、ファームによっては地方での常駐や出張をこなす必要もあります。企業再生では経営状態の悪化した企業を支援することも少なからずあり、経営環境の劣悪な企業や社内風土が混とんとした企業をターゲットとするようなシビアな環境での勤務にも耐えうるメンタリティを持つ人材も高く評価されます。
企業再生分野に転職する年齢に関しては、企業再生未経験者の場合、30歳~30代前半くらいまでの年齢がひとつの目安です。企業再生意外のFAS(M&A等)の経験者であれば30代半ばくらいまでが目安になります。
企業再生コンサルティングファーム業界で活躍する公認会計士の記事を読む
企業再生コンサルティングファーム業界で活躍する会計士の記事を読む
企業再生関連のおすすめ書籍
企業再生コンサルティングファームでの業務や仕事内容を学ぶには下記の書籍が参考になります。
企業再生の専門知識を学ぶ
企業再生分野では、経営、財務、会計、税務、法務、人事、マーケティングなど多岐にわたる知識が必要とされます。企業再生の中でも自らが目標とする分野を明確にし、必要な知識を身に付けることが重要です。
実践的中小企業再生論
中小企業を中心とした企業再生に関して全方位的に理解できる良書。
産業再生機構 事業再生の実践〈第1巻〉~〈第3巻〉
産業再生機構が手がけた案件などもケースとして取り上げつつ、企業再生のノウハウをまとめた専門書。圧倒的なボリュームと専門性を誇る企業再生に関する名著。
企業再生関連の実務書
企業再生の現場を学ぶ
企業再生に限らず、自らが志望する業界の現場がどのようなところなのかを予め学んでおくことは重要です。特に、専門書で学べる知識と現場の勘所が異なることは多く、実務においてはそこをいかに短期でキャッチアップできるかがスキルアップのポイントとなります。以下の書籍では小説・物語形式で企業再生の現場を理解することができます。
ステークホルダー -小説 事業再生への途-特にオススメ!
米国の企業再生コンサルティングファームを舞台にしたビジネス小説。PARTⅠでは、ターンアラウンドの現場だけでなく米国流の企業再生手法がリアルに学べる。
企業再生関連の事例集・小説
企業再生の心構えを学ぶ
企業再生の現場は想像以上に過酷であり、修羅場の連続です。以下の書籍では企業再生ビジネスに取り組むにあたっての心構えを学ぶことができます。
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