2019年7月の会計士業界の時事ニュースをお届けします。
6月26日、7月2日、5日にリリースされた「AIと未来の監査」「デロイトトーマツが企業向けリスク分析サービス開始」「監査審査会からBIG4へ上場金融機関監査の報告命令」の3件のニュースをご紹介します。
AIと未来の監査
- 不正会計リスク発見 瞬時に 人手不足解消にも一役 会計の未来 AIが変える監査(上)(日本経済新聞 2019年6月26日付)
- 主役はデータ人材 迫るGAFAの脅威 会計の未来 AIが変える監査(下)(日本経済新聞 2019年6月26日)
AI監査の試験的な取り組みが広がる中、早くもその成果が報告されています。
今回、不正会計リスク発見に対するAIの成果に関する記事が、日本経済新聞よりリリースされています。
「営業チーム以外が売上高の過大計上に関わっている兆候はある?」「イエス。オフィスの退出時間やメールを暗号化している点などから考えると、明らかに複数のメンバーが関与しているね」――。
会計士が担当企業の経理状況について質問すると、AIが音声で即座に答える。国際会計事務所KPMGが開発中のAI監査システム「クララ」のイメージだ。2023年ごろの本格展開を目指している。
引用元:不正会計リスク発見 瞬時に 人手不足解消にも一役 会計の未来 AIが変える監査(上)(日本経済新聞 2019年6月26日付)
記事によると、「クララ」は幅広いデータを独自に分析し、24時間リアルタイムで会計不正がないかチェックが可能とのことです。また、EY新日本監査法人が開発した不正検知システムでは数社に1社の割合で異常値が検出されているそうです。他方、AIを活用するためには有効なデータ収集が不可欠であり、成果のみならずデータ収集の課題も浮き彫りになっています。
続編『会計の未来 AIが変える監査(下)』では、これから会計士の役割や監査制度がどのように変化していくのか言及しています。
監査法人のライバルはもはや監査法人だけにはとどまらない――。EY新日本監査法人などの内部で、こんな議論が活発に繰り広げられている。新たな競合として想定しているのは、米グーグルやアマゾン・ドット・コム、セールスフォース・ドットコムなどのIT(情報技術)企業だ。
引用元:主役はデータ人材 迫るGAFAの脅威 会計の未来 AIが変える監査(下)(日本経済新聞 2019年6月26日)
記事では、今後巨大IT産業が監査業界に参入してくる可能性があると伝えられています。また、東京大学の首藤昭信准教授は、事後的な監査を軸とする制度全体を再考得ざるを得ないということも指摘しています。
未来の監査がどのようにAIを取込み変化していくのか。監査法人そして会計士は課題を解決しながら、共存していかなければなりません。
デロイトトーマツが企業向けリスク分析サービス開始
- 経営リスクの分析をクラウドサービスで実現 デロイト トーマツが提唱する次世代のリスクマネジメントとは(EnterpriseZine 2019年7月2日付)
監査法人には監査で収集した豊富なデータベースが蓄積しています。その知見を企業のリスクマネジメント分析に生かそうと動き出したのが、デロイトトーマツです。
今回、デロイトトーマツが独自開発した経営リスク分析のクラウドサービスに関する記事が、EnterpriseZineよりリリースされています。
本サービスはデロイト トーマツがこれまでの豊富な事例と知見から、リスクシナリオや分析ロジックを盛り込んで独自開発したSaaS型アプリケーションだ。すでに企業内で稼働しているシステムのデータを取り出して分析するため、新たにシステムを導入する必要がない。またクラウドサービスとして提供するため、分析用の機器を導入する必要はなく、専門家が一から分析するのと比較すればすぐに始められるのがメリットだ。
引用元:経営リスクの分析をクラウドサービスで実現 デロイト トーマツが提唱する次世代のリスクマネジメントとは(EnterpriseZine 2019年7月2日付)
記事によると、本サービス『リスクアナリティクス オン クラウド(Risk Analytics on Cloud)』は、新たなシステムや分析用の機器の導入は不要なためすぐ始められるメリットがあるそうです。また、分析アプリは「子会社分析アプリ」「経費・労務分析アプリ」「購買分析アプリ」など複数あり、企業が課題と感じるリスクに合わせて利用できるということです。
リスク要因が複雑化する今の経済社会において、タイムリーにリスクの兆候を検知できる本サービスは、企業のニーズに合致したサービスと言えそうです。
監査審査会からBIG4へ上場金融機関監査の報告命令
- 地銀への外部監査を検証、大手監査法人に報告命令へ=監査審査会(ロイター 2019年7月5日付)
不正融資や不正な手数料収受など地銀による事件が相次ぐ中、地銀を含む上場金融機関に対する監査の質にも注目が集まっています。
今回、公認会計士監査審査会から4大監査法人への報告命令に関する記事が、ロイターよりリリースされています。
金融庁傘下の公認会計士・監査審査会は5日公表した2019事務年度(19年7月―20年6月)の監査法人に対するモニタリングの基本計画に、地方銀行を含む上場金融機関に対する監査が適正に行われているか実態把握する方針を盛り込んだ。
引用元:地銀への外部監査を検証、大手監査法人に報告命令へ=監査審査会(ロイター 2019年7月5日付)
記事によると、今回、地方銀行を含む上場金融機関が報告対象になった背景には、低金利の持続などで地銀の収益環境が厳しくなっており、地銀に対する監査にも懸念があると伝えられています。
経営環境が厳しくなる中、地銀が抱える経営リスクは高まっています。リスクに見合った適切な監査が出来ているのか、監査の質が問われます。
(著者:大津留ぐみ / 大津留ぐみの記事一覧)