東京共同会計事務所と聞けば、「金融税務や会計のスペシャリスト集団」「証券化・SPC税務のパイオニア」「ストラクチャード・ファイナンスに強い会計事務所」など、様々なイメージがあるだろう。
実際、証券化分野のトップファームのひとつとして会計事務所業界のみならず、金融業界においてもその名を知られており、近年では国際業務の分野でも実績を伸ばしつつある。
東京共同会計事務所はなぜ専門家集団と成り得たのか。そして、その専門性を維持する組織の仕組みはどうなっているのか。代表パートナーの内山隆太郎氏に話を聞くと、その口から語られたのは“美しい仕事”という言葉だった。
内山隆太郎(うちやま りゅうたろう)
東京共同会計事務所
代表パートナー 公認会計士・税理士
慶應義塾大学在学中(1985年)に公認会計士試験2次試験に合格。1987年、監査法人中央会計事務所入所。1990年、中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所へ転籍。1991年、同事務所のマネージャーに昇格。1993年、28歳で独立し東京共同会計事務所を設立。証券化、ストラクチャード・ファイナンス分野のパイオニアとして、国内外の大手金融機関や不動産会社、総合商社などをクライアントにサービスを提供。
「金融ビッグバン」「証券化」「リーマンショック」、東京共同会計事務所は日本の金融業界の歴史と共にある
当時、大手会計事務所の一角を占めた中央クーパース・アンド・ライブランド国際税務事務所にて、部下と上司の関係にあった内山隆太郎氏と渡辺隆司氏の両名の強みを活かした「金融に強い」ファームとして、1993年に東京共同会計事務所は誕生した。
今では当たり前となった資産のオフバランスに伴う証券化ビジネスの黎明期でもあった。
「証券化は、まだサービスとして確立されきっていない時代でした。そして金融ビッグバンの流れもあり、市場が開放されたことで、金融市場では大きな変革が起きていたのです。我々の強みと時代がちょうど合ったわけです。」と、内山氏は当時を回想した。
金融ビッグバンとは、それまで大蔵省(当時)の支配下にあった金融市場の規制を撤廃・緩和することで市場の活性化・国際化を図ろうとした政府の施策のことだ。
1990年代前半の金融ビッグバンを契機に、資産の流動化・証券化に関する各種法律が整備され、それに伴いSPCを始めとした証券化ビークルの設立や管理、流動化のためのストラクチャーの構築が必要となった。
さらに当時は、バブル崩壊後の不良債権処理も急務であり、「金融に強い」ことは最も時代に求められているテーマだったといえる。実際に業界が盛り上がり始めた当初は競合も少なく、「SPC関連の業務一本足でやっていた時期もあった」そうだ。
ただ、そんな状況は2008年のリーマンショックの訪れとともに終わりを告げる。
リーマンショックの前から、このまま証券化一本で良いのかという危機感のようなものもありました。仕事がたくさん入ってくる一方で、業務量が増加し、メンバーが疲弊しているのを感じていたのです。
このまま証券化ビジネスだけに集中していてはいけない。かといって、お客様に対しての責任もあり安易に縮小するわけにもいかない。ただ、時代は変わってきていると感じていました。そこにリーマンショックが来たのです。
次の手を打つにしても、体制の立て直しが急務となった。次の手を考えながら、証券化ビジネスを再び軌道にのせるための時間が数年続いた。
そして、2012年頃、「国際」というテーマにより本格的に取り組もうと意思を固めたという。
「狙うべき次の市場として国際分野を選んだのは、ファンド金融の次はグローバル化する企業が経済をリードするはずというお金の流れのイメージがあったのと、当時はBIG4以外に国際税務を担える事務所は数えるほどだったから」という理由も、証券化というニッチな分野にいち早く着目した東京共同会計事務所らしい嗅覚の鋭さを感じさせるエピソードだ。
我々の強い証券や金融に近いところで、グローバル化する企業戦略に近い分野は何だろうと考えました。そうしたらM&Aがあるじゃないかと。M&Aの中でも国際案件に力点を置けば、他社との差別化にもなる。その発想をきっかけに国際というテーマで多角化を図っていこうと決めたわけです。
東京共同会計事務所の歴史を辿ると、そこには日本の金融業界の歴史が共にあり、その中で高い専門性が必要とされる領域をピンポイントで狙い、ビジネスを拡大してきたことが伺える。
創業時から受け継がれる“美しい仕事”のDNA
現在、東京共同会計事務所は、約300名のメンバーを有し、証券化、ストラクチャード・ファイナンス、クロスボーダーにも対応したM&Aアドバイザリー、移転価格、関税(EPA・FTA)など、高い専門性を必要とする分野を中心にサービスを展開している。
その顧客には、大手金融機関や不動産会社、総合商社などが名を連ねることから、その品質の高さも想像に難くない。
特別な後ろ盾も持っていたわけでもない独立系の会計事務所が、こういった高度な専門性を必要とする分野での地位を確立してきた理由は何であろうか。「金融」や「国際」など分野を決めて特化してきたからこそ、東京共同会計事務所は専門性の高い集団へと研ぎ澄まされていったのだろうか。
すると、内山氏の口から、共同創業者であり自身の師匠でもある渡辺隆司氏のエピソードが語られた。
分野に特化して仕事をしているから専門性が高くなるということはもちろんありますが、やはり渡辺の存在が大きいです。渡辺は既に引退していますが、今もなお、税金の勉強を続けています。引退して公認会計士・税理士の資格も返上しているにも関わらずです(笑)。
現場から退いても税務や会計を探求し続ける、そういった専門家として眼の前のことを突き詰めていく感性が、私に、そして、現在に至るまでの東京共同会計事務所に脈々と受け継がれていると思います。
渡辺氏から内山氏へと受け継がれたその姿勢を、内山氏は“美しい仕事”と表現した。
美しい仕事とはどういうことだろうか。
例えば、税務でいえば、一般的に多くの税理士は税法をもとに判断します。しかし、私たちは民法や会社法、判例や事例、さらにはそれらの根拠となる条文まで掘り下げた徹底した論理構築を行い結論を出します。
そして、その先。依頼された事案に対して税金面のみの意見を述べるのではなく、税金面でのリスクは当然踏まえた上で、ビジネスの機運などの観点も含めて総合的に判断し、判断に至った経緯も含めてクライアントが納得できるように説明する。それが私たちの仕事です。
誰かが構築した論理に頼り切ることなく、判例や事例の根拠条文まで掘り下げて完璧に調べ上げる。そしてその先の結論を導く論理構築をも行い、プロとしての意見を依頼者へと提示する。この一連の流れこそが、東京共同会計事務所の流儀だ。
複数の仕事が重なり合う“るつぼ”の中の熱狂で人は育つ。組織として専門性を維持する仕組み
創業期から受け継がれてきた“美しい仕事”を維持し続ける組織であり続けるために、東京共同会計事務所にはどういった仕組みがあるのだろうか。
東京共同会計事務所の所内で開催される数々の社内研修は、時に外部講師を招いても行われる。また、外部研修の受講や書籍購入のための費用補助など、知識を研鑽していくための制度も当然のことながら整っている。
また、圧巻は、毎月各部門の担当者が新刊を追加していくという約10,000冊の蔵書だ。図書専用システムが導入されており、必要な書籍はすぐに検索できる上、貸出状況も把握できるという、図書館レベルの仕様になっている。
ただ、内山氏からは、制度や設備以上に、現場での経験を大事にしていることが伝わるエピソードが語られた。
「良い先生」と「良い生徒」、そして、「良い仕事」が揃うと、人は育つのです。「経験豊富な上司」に、「学ぶ意欲が旺盛なメンバー」、そして、良い仕事とは、「るつぼのようにボリュームがある仕事」です。
“るつぼ”とはどういうことだろうか。
様々な仕事が複数重なった環境のことです。
例えば証券化であれば、ストラクチャリングもするし、会計・税金の意見も述べる、SPCの記帳や税務申告、SPCに対する監査など、証券化に関わる様々な仕事を様々な角度から受け持ち、クライアントとの接点も多数ある仕事環境。このるつぼ状態を経験することで、専門家として知識や経験が積み重なり鍛えられていくのです。
それはスタートアップ企業のような小規模組織で、ひとりが広範なミッションを担うことに近いのだろう。
すると、そうだというように頷きながら、これまでをこう振り返った。
金融改革が起き始めた証券化の黎明期は、人数が少ないけれど案件数が多いというベンチャー的な環境に加えて、誰も正解が分からない初めて直面する事例も多く、さらに、クライアントからも質問攻めにあう環境もあって、専門家として鍛えられる条件が揃いに揃っていました。
創業期から受け継がれる美しい仕事のDNA、るつぼのような熱狂に包まれた証券化黎明期の環境、充実した研修や知識研鑽のための各種制度、それらが積み重なり、現在の東京共同会計事務所へと至る。
従業員数も間もなく300名を超えようとする規模となり、これまで培ってきた高い専門性を維持する仕組みは順調に維持されてきているように見える。
そう伝えると、内山氏は「まだまだ満足できる状況にはないんです。」と、やや恥ずかしそうに笑みを浮かべた。
東京共同会計事務所の各部門のほとんどは、数名~数十名規模であり、所属するメンバーが様々な案件に取り組める、かつての“るつぼ”のような環境が再現されている部門もあるという。
一方で、証券化・ビークル管理を行う、同事務所の主力部門であるフィナンシャル・ソリューション部(FS部)は、現在では100名を超える規模へと成長している。
業務プロセスやマニュアルが整備され、組織として品質を維持しながら、案件を処理していく体制はできた。社内研修など従業員を育成する仕組みもある。
しかし、「心技体でいうと、技を身につける環境はあります。しかし、それだけでは十分ではなく、心と体については、それらを持った人と実際に一緒に案件に取り組むことで、より大事なことが伝わるとも感じています。スタッフがより成長できるために、かつてのように様々な案件を経験できる環境を再現したいんです。」と、内山氏は理想を語る。
これから先の時代は、金融機関が担えないような小さな案件も数多く出てくると予想しています。小規模な案件は、利益も大型のものより小さくなるかもしれませんが、スタッフが様々な経験を積む機会にもつながります。
そういった案件を生かして、他の部門との連携を増やす仕掛けを作り、FS部のメンバーも参加できる新たな挑戦の場も用意したいと考えています。そこではるつぼが生まれると思いますし、その中でひとりひとりがどんな風に成長していくかが非常に楽しみです。
最後に、内山氏に「東京共同会計事務所のメンバーに、どのようになってほしいか?」と投げかけるとこんな言葉が返ってきた。
「お客様をリードできる良いプロになってもらいたい。」
それさえできれば、専門家として自分の力で生きていけるようになります。自分で仕事をデザインできることによって、自由度が増し、個人としても幸せになれるのではないかと思っています。
一番は東京共同会計事務所のメンバーとしてずっと一緒にやっていけるのが良い、二番目は、育って出ていって、その後もずっと仲良くできると良いですね。