2018年11月28日、霞ヶ関キャピタル株式会社が東証マザーズに上場した。
霞ヶ関キャピタルは、東日本大震災で被災したショッピングセンターの再生からスタートし、自然エネルギー事業、不動産コンサルティング事業などへと事業を展開してきたベンチャー企業である。
そんな霞ヶ関キャピタルが、2011年9月の設立からわずか7年でIPOを実現できたのはなぜだったのか?
今回、霞ヶ関キャピタル株式会社のCFOとしてIPOを主導した現・取締役管理本部長の廣瀬一成 氏と、数々のベンチャー企業のIPOを支援しているブリッジコンサルティンググループ(BCG)、IPO支援事業部部長の伊東心 氏(公認会計士)、FAS事業部部長の稲岡賢 氏(公認会計士)のふたりにIPOの裏側と支援者に求められる資質について伺った。
廣瀬 一成
霞ヶ関キャピタル株式会社
取締役 管理本部長
証券業界にてキャリアをスタートし、事業法人向け営業に従事。その後、国内外の証券会社で、上場企業に対して、事業戦略に沿った資本政策等の立案、株式価値の向上策等の提案・実行を行う投資銀行業務に従事。2016年に当社に参画し、取締役に就任。管理部門において社内体制構築全般を主導、現在は財務経理を担当。
※所属・役職等は記事掲載時の内容です。
3.11、被災したショッピングセンター再生から地方創生へ
被災した東北に貢献できないか?ショッピングセンターの再生へ
霞ヶ関キャピタルの歴史は、高層ビル群・官公庁がひしめく霞が関ではなく、震災に揺れた宮城県仙台市から始まる。
その社歴は、2011年9月、東日本大震災で被災したショッピングセンター「SCフォルテ」を取得したことから始まった。東日本大震災の直後、誰もが東北の先行きに不安を抱え、いくら割安とは言え不動産投資に躊躇する時期の大きな決断だった。
霞ヶ関キャピタル株式会社の沿革
- 2011年9月:宮城県仙台市で設立。同年、東日本大震災で被災した商業施設(SCフォルテ)を2011年に取得し再生。
- 2013年6月:SCフォルテの屋根に太陽光発電施設を設置するとともに、太陽光発電施設の開発事業を全国展開。
- 2014年9月:マンション開発に係るコンサルティングなど不動産コンサルティング事業を開始。
- 2015年8月:現在の商号に改めるとともに、本社を霞が関に移転。
- 2018年11月:東京証券取引所マザーズ市場へ上場。
ショッピングセンターの運営からスタートした同社だったが、当時、自然エネルギーへのニーズの高まりや、固定価格買取制度の全量買取制の導入などから太陽光発電が注目を集めていた時期であった。
そこでショッピングセンターの屋上を利用して太陽光発電を始めたところ、思いのほか収益性が高く大きな収益源となり、この自然エネルギー事業を2本目の柱の事業として、太陽光発電施設の開発・売却事業で、全国展開に乗り出した。結果として自然エネルギー事業は霞ヶ関キャピタルの売上の半分を占める主力事業に成長した。
同社の3つ目の主力事業は不動産コンサルティング事業だ。インバウンド需要を見越して観光客やファミリー層をターゲットとしたアパートメントホテルの開発を行う。また待機児童問題に対応し、保育園のオペレーターや保育園開発を手掛ける。
2014年から3事業(ショッピングセンター事業、自然エネルギー事業、不動産コンサルティング事業)を展開しているが、総売上高は2014年8月期の約4億9,000万円から2018年8月期の約40億円へと4年間で10倍近くとなり、同業他社と比較し抜きんでた成長を続けている。
なぜIPOを決断したのか?
霞ヶ関キャピタルのような優良企業、かつ、事業モデルを考えると上場を目指すことなく、デット(借入)によるプロジェクトファイナンスを中心とした調達での成長を模索することも可能であっただろう。だが取締役CFOの廣瀬氏は、霞ヶ関キャピタルがより大きく成長するためにIPOが不可欠だったと語る。
当然のことながら、アセットビジネスには資金が必要です。同じビジネス規模で行くなら金融機関からの借入でも良かったのですが、事業拡大にはIPOでもっと大きな額を調達する必要がありました。
資金面以外にも、取引関係からの信用力向上や優秀な人材の確保という面でも、当初から上場は不可欠だと考えており、上場会社となった今もこれは実感しています。
2015年12月に監査法人によるショートレビューを実施。監査人に太陽監査法人、主幹事証券にみずほ証券が決まり、IPOに向けての準備がスタートした。
IPOまでの軌跡、ブリッジコンサルティンググループとの出会い
拡大する管理業務と上場企業経験のない管理部門スタッフ
2015年12月のショートレビューから2017年12月にブリッジコンサルティンググループ(以下、BCG)のIPO支援がスタートするまでの2年間、霞ヶ関キャピタルは社内のリソースだけでIPO準備を進めていた。
廣瀬氏がヘッドハンティングされたのは、ショートレビューから数ヶ月後だった。早稲田大学大学院のファイナンス研究科1期生の同期で、霞ヶ関キャピタルの創業者でもある小川潤之氏から、「IPOを成功させるために力を貸して欲しい。」との依頼があり、取締役CFO職を引き受けることになったという。
廣瀬氏が2016年3月に入社した当時は、同社は役員と社員合わせてわずか6名の小規模な組織だったという。
6名のうち管理部門は総務部2名と経理部が1名で、経理担当者が顧問税理士からOJTを受けつつ、1人で経理全般をこなしている状況でした。
当時は事業も拡大していて、その後2年間で20名以上を中途で採用していくことになるのですが、その時点で既に今まで通りの管理では回らなくなっていました。そこからIPOを予定する2018年夏に向けてさらに人員増も見込まれており、社内体制の整備が急務でした。
既存のメンバーによる準備は進みつつも、引き続き上場企業やIPO準備の未経験者が中心の状況で、すべてを既存のメンバーだけで対応するには限界が来ている状況であった。そこで、廣瀬氏は外部専門家への依頼について検討を始める。
IPO支援のプロとの出会い
BCGとの出会いのきっかけは印刷会社のプロネクサスからの紹介だった。IPO支援の実績がある専門家としてBCGを薦められた。
BCGは数々の企業のIPO準備を支援し、上場へと導いてきた管理部門構築支援のプロフェッショナル集団だ。
廣瀬氏は証券会社出身で、前職時代から多くの公認会計士と付き合いがあった。また、IPO支援を得意分野とするコンサルティングファームも数多くある。その中からBCGを選んだ理由は、「経験の浅いスタッフとも丁寧かつ円滑にコミュニケーションを取りつつ当社と一体となってIPOに向かって突き進んでくれると感じたから」と廣瀬氏は言う。
当社の経理部の従業員は入社してから日が浅く、上場企業での経験者もいませんでした。そこで既存のメンバーについて、かなりのスキルアップが必要な状態でしたので、基礎的な事項の質問をしても、真摯に向き合いサポートしてくれる支援者を必要としていました。
IPOに向けての始動、霞ヶ関キャピタルへの第一印象は?
霞ヶ関キャピタルがBCGに最初に依頼したのはIPOに向けた内部監査体制の構築支援だ。
霞ヶ関キャピタルとの初対面において抱いた印象をIPO支援事業部部長の伊東氏(公認会計士)が語った。
伊東 心
ブリッジコンサルティンググループ株式会社
執行役員/IPO支援事業部 部長
公認会計士
2006年、公認会計士試験合格。慶応義塾大学経済学部卒業。
会計士試験合格後、TAC公認会計士講座の講師を経て、新日本有限責任監査法人MNC部での日系グローバル企業等の会計監査を経験。その後、IPO準備企業に入社し、東証マザーズへの上場準備、上場後のIR活動等を経験。
BCG参画後は、上場準備会社72社(うち12社がIPO達成済み)に上るIPO支援事業部の部長として、各社を支援。
会社さんへ初めてお伺いした時は、オフィス全体に洋楽が流れていて、執務室の脇にウォーキングマシーンが置いてあるなど、非常に風通しが良い組織風土が感じられ、まさにアットホームかつ社内メンバーに一体感のある会社だと感じました。
また、内部統制に必要な業務フロー図などの文書を見ると社内メンバーの皆さんの頑張りもあり、ひと通りできている状況で、経理担当の皆さんが上場企業での経験やIPO準備について未経験であるにも関わらず、皆さん自身が自発的にIPO関係の本を読んで個々で勉強しながら対応して作られたとのこと。このことからも、非常に真面目で実直な風土の会社であり、アットホームな組織風土の中でも“やることはやる”という非常にプロフェッショナルな方々が多いと感じました。
このような現況を踏まえて、BCG社内でミーティングを実施し、支援させて頂く際のポイントは、現場の方々とのコミュニケーションを大事に、形式面にとらわれず、実態に合った運用しやすいものを作り込んでいくことだと判断しました。
経理の皆さんが作成した資料はある程度は、出来上がっている状況でしたので、どの程度手を加えて良いのかはその時点では判断が難い状況でした。
そこで、現場の方々と丁寧にコミュニケーションをとりながら、霞ヶ関キャピタルさんにとってどのような内部監査体制の構築がよりビジネス面とコンプライアンス面のバランスを取りやすいのか、ビジネスを俯瞰し、バランスを見ながら支援を進めることにしました。
BCG側の担当者は20代の公認会計士
BCG側の担当者として、ある20代の公認会計士に白羽の矢が立った。
霞ヶ関キャピタルとの当初の契約は、月に10日間、同社のオフィスに訪問しての実務支援を3ヶ月間行うというものだった。
この時の様子を廣瀬氏は次のように語る。
財務経理担当者が質問すればすぐ返答してもらえる距離にいてもらえて大変ありがたかったです。上場を目指す中で会社がビジネス面でもコンプライアンス面でも大きく成長するステージで、担当者たちの吸収力やモチベーションも高まっている時期だったので、ブリッジさんに指導していただいてスタッフのレベルがどんどん上がっていくのを感じました。
知識が豊富でロジックが正しいことを指摘してくれる公認会計士は、正直どこにでもいます。しかしながら、コミュニケーションを大切に、難解な事象もわかりやすく丁寧に指導してくれる公認会計士は少ないと思います。
こういった皆さんに社員だと思うぐらいの親密さでサポートしていただきました。現場と同じ目線に降りてきて説明していただき、また、フランクに接していただいたので、経理のメンバーも会計士に質問するべきことなのかな?、、、と構えることなく接することができていました。現場も良い意味で会計士の先生方と接している、という感覚はなかったですね。
BCGの担当会計士は、社内の状況や支援の温度感が分かるまでは日数に厳密にはこだわらず、オフィスに通い現場をサポートし、そこに会社との大きな信頼が生まれたという。
クライアントと支援者の垣根を越えた良好な雰囲気の中、IPOに向けての準備は進んでいった。
ストックオプション発行、英文バリュエーションレポートの作成も支援
3ヶ月の支援期間でIPOに向けての内部監査体制は整備されたが、その後も支援は続いた。その当時のことをBCGの稲岡氏に伺った。
稲岡 賢
ブリッジコンサルティンググループ株式会社
執行役員/FAS事業部 部長
公認会計士
2008年、公認会計士試験合格。関西学院大学経営戦略研究科卒業。
会計システムベンダーにてシステム導入支援コンサルティングの経験を経て、監査法人トーマツ(現 有限責任監査法人トーマツ)トータルサービス1部にてベンチャー企業の会計監査・IPO支援業務等を経験。BCG参画後は、FAS事業部の部長として、年間100件以上の各種デューデリジェンスやバリュエーション業務等に従事。
3ヶ月で当初契約していた作業が完了してからも、開示の支援やご質問に対する継続的なサポートを行いました。また、私の管掌するFAS事業部にて、ストックオプションの発行、資本提携のための第三者割当の際のバリュエーション業務、更には海外投資家向けの英文でのバリュエーションレポートの作成など、ファイナンスのお手伝いもさせていだたきました。
ベンチャーということで急なディールになるケースもあり、非常に時間的にタイトな案件などもありましたが、会社さんの側で非常に真摯に対応してく下さり、また従前のIPO準備支援を通じて現場の皆さんとのコミュニケーションが密に取れており、予め会社のことも良く理解できていたこともあり、スムーズに対応することができました。
マンパワー不足はIPO準備の課題
成長途中の企業なら売上や管理体制が一時的に不安定になることがあるだろう。IPOにおいても同じく不測の事態が起こりうる。
霞ヶ関キャピタルのIPO準備においても、人材採用は大きな課題だったとBCGの伊東氏は振り返る。
管理体制の確立は発展途上にあるベンチャー特有の大きな問題です。全社的な観点からコンプライアンスを見たとき管理部門は非常に重要な役割を果たします。そのため、多くのIPO準備企業が証券会社からの指導で管理部門をもっと増員するよう指摘されるわけですが、霞ヶ関キャピタル様においても同様でした。
この窮状は、BCGの開示支援が非常に心強かったと廣瀬氏は言う。
当社の管理部門において残念ながらIPO準備中に思うように採用が進みませんでした。
役割分担しながら業務をこなしていましたが、まだ開示特有の知識や業務の流れについて具体的なイメージが出来ておらず、どうしても開示業務を正しく行う上で我々と共に伴走してくれる仲間、先導役が必要でした。
そこでブリッジさんにサポートをいただき、なぜこの資料が必要なのか?そもそもスケジュールはどのようになっていて、どのように利害関係者を巻き込みながら業務を進めていくのか?単に資料を作成するだけではなく、開示資料のトライアルにも密接に関わって、アドバイスしてもらい非常に心強かったです。
IPOで起きた変化、ブリッジコンサルティンググループとのその後
ベンチャー×管理部門、優秀な人材は希少
霞ヶ関キャピタルのIPOには優秀な人材の確保という目的もあったと廣瀬氏は言う。実際に上場してみて何か変化があったのだろうか?
営業と管理部門は同じスピードで成長するのが理想ですが、当社の場合、営業がものすごいスピードで伸びていく一方で、管理部門はその成長についていくのがやっとでした。
原因はやはり採用に関する違いだと思います。営業なら世の中にはたくさんの営業経験者がいますので、当社のメンバーが知っている優秀な人材に直接声をかけたり、ヘッドハンティングしたりすることができます。しかし、上場企業の管理部門経験者となると対象者も少なく、そもそも当社の管理部門メンバーも数人しかいませんから、上場企業やIPO準備企業の経験者との個人的なつながりもありませんでした。
上場してからは、管理部門の中途採用にエントリーしてくださる方の経歴を拝見しても、上場前よりもあきらかに優秀な方の応募が増えており、変化を感じています。
上場後のBCGとの関係について廣瀬氏は、会社が成長していくために引き続き要所要所で支援を依頼したいと言う。
我々の会社のカルチャー、事業内容や特性を知っていただけていることと、また、社内メンバーとのコミュニケーションを重視してくれること、この点が当社にとっては非常にメリットを感じており、引き続き決算に関するポイントでのご支援をいただいています。当社は無事に上場はしたものの、今の管理体制で満足してはいません。これからもまだまだ強化していかなければならいことが多々ありますので、今後も引き続き支援をお願いしたいと考えています。
上場企業の取締役CFOから見た公認会計士の可能性とは?
金融業界を経験しIPOも経験した廣瀬氏は、最後に公認会計士へのメッセージを語ってくれた。
これまでたくさんの公認会計士の方とお会いしましたが、証券会社勤務の際には、監査法人勤務の会計士の方中心にお会いしていたので、会計士に対しては非常に堅いイメージがありました。
聞かれたこと、相談されたことには回答をもらえるものの、人vs人の付き合いというよりはもちろん会社vs会社のお付き合いが中心にならざるを得ません。後、外部や個人的な仕事で知り合った会計士の方は、どちらかと言うと非常に社交的で会話もフランクで、フットワークが非常にスムーズな方々が多い印象です。様々な仕事で多くの会計士の方とお仕事させていただきましたが、いろいろなタイプの会計士の方がおられて、どなたも専門家として非常に的確なアドバイスを頂ける有難い存在でした。
会計士の方々にとってはその会計的な知識を専門的に生かして監査法人で監査するのが王道なのかもしれませんが、監査法人以外にも活躍できる場は無限にある、と個人的には感じています。
たとえば、会計士といえば会計と数字のプロですし、ビジネスの実態を分かっている会計士の方なら企業の管理部門でも高い需要があるでしょうし、その知識を活かせばたくさんのチャンスが世の中に転がっていると思います。また、世の中にはたくさんの仕事がありますが、公認会計士、弁護士、金融機関は独特なポジションにある職業で、名刺1枚あれば上場企業の役員と会うことも、ビジネスを一緒にすることも可能です。そういったチャンスをいかに活用するかが最も大事だと思います。
監査法人にいても企業の現場へのヒアリングなどでより多くの人と話す機会はたくさんあると思いますし、そこでビジネスに関する経験や嗅覚、感度を磨いて頂き、よりたくさんの公認会計士の方にそれぞれの場面、仕事で活躍して頂ければと思っています。
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