2023年8月5日、公認会計士ナビは第12回 公認会計士ナビonLive!!を開催しました。コロナ禍での休止を経て4年ぶりの開催となった本イベント、今回のテーマは「変化する世界、進化する公認会計士たち」。
本稿ではそこで開催されたセッションの中から「FAS+αで付加価値を提供する公認会計士たち」の様子をお届けします。
本セッションに登場するのは株式会社J-TAPアドバイザリー(以下「J-TAP」)の片寄学さんと、株式会社クリフィックスFAS(以下「クリフィックスFAS」)の神原大樹さんのふたりの公認会計士。
両社は共に少数精鋭の独立系FAS事務所でライバル会社にも思えますが、話を聞いているうちに、両社の専門領域がちょっと異なることがわかってきます。
独立系FASは専門領域をどのように決めているのか、そこで求められる人材像とは。片寄さんと神原さんに、公認会計士ナビ編集長の手塚が迫ります。
※本記事の登壇者の肩書・経歴等はイベント登壇時のものになります。
※本記事の内容は公認会計士ナビにてセッションでの発言内容に編集を加えたものとなります。
独立系FASの2人が登場。監査法人から転職・独立の経緯とは?
手塚(公認会計士ナビ):公認会計士ナビの手塚です。本セッションのモデレーターを務めます。よろしくお願いします。
まずはおふたりの自己紹介をお願いします。
片寄(J-TAP):J-TAPの片寄です。よろしくお願いします。
片寄 学
株式会社J-TAPアドバイザリー 代表取締役
J-TAP税理士法人 代表社員
公認会計士・税理士
2006年、公認会計士試験合格。新日本有限責任監査法人入所。金融部にて日系・外資系の大手金融機関、地域金融機関、及び投資会社・ファンドの監査業務、大手金融機関向けの、海外子会社を含む内部統制構築支援、USGAAP・連結を含む決算支援、IFRS導入支援、M&A局面におけるPPA/PMI業務等幅広く関与。
その後、一貫して中堅/中小企業向けの事業再生及びM&Aアドバイザリー業務に従事。私的整理局面での事業・財務・税務デューディリジェンス業務、事業計画の策定支援、スポンサー探索を含む再生型M&A支援、組織再編及び債権放棄を伴うストラクチャー組成、バリュエーション、事業計画実行支援など多数の案件に関与。業種は、製造業、小売業、建設業、宿泊業、運送業、酒造業、医療法人、学校法人等幅広く関与。
2012年、EY在籍中に、公的再生ファンドにて投資担当として事業再生支援業務に従事。
2013年、株式会社J-TAPアドバイザリーの代表取締役に就任。早稲田大学政治経済学部政治学科卒業。
片寄(J-TAP):私は大学卒業後に公認会計士試験に合格し、EY新日本監査法人に入社しています。最初は金融機関の監査をしていて、途中から監査法人内の中堅/中小企業向けアドバイザリーチームに移り、事業再生やM&Aの仕事に従事。そして10年前に独立しています。
そんな経歴なので、独立してからも最初は中堅/中小企業向けの事業再生やM&Aの仕事を中心に請けていたのですが、最近は上場会社向けのFAも含むM&A業務にも関わっています。
手塚(公認会計士ナビ):独立された時はフリーランス的に1人で仕事をされていて、ここ数年でファームを拡大させていく方針に切り替えたんですよね?
片寄(J-TAP):はい、その通りです。私1名と何名かの非常勤会計士に手伝ってもらっていました。ストレスをあまり受けずに自分のペースで働くという意味においては、フリーランスの方がいいとは感じています。
ではなぜ私が組織化したかというと、色々な専門家を揃えて、ワンストップで中堅/中小企業の課題を解決するファームを作って、自分が良いと思うサービスを世の中に広げていきたいと思ったからです。
会計士とはいえ、もともと会計だけではなく事業再生やM&Aといったビジネスやファイナンスを理解する必要がある仕事に関心がありましたし、そういったことに興味がある若手会計士を育てたいという気持ちもありました。それで組織を拡大する方針に切り替えています。
神原(クリフィックスFAS):クリフィックスFASの神原と申します。
神原 大樹
株式会社クリフィックスFAS
マネージャー/公認会計士
2010年公認会計士試験合格後、有限責任あずさ監査法人に入所。金融事業部において、大手金融機関やFinTechベンチャーの会計監査、会計アドバイザリー業務に従事。
2017年に株式会社クリフィックスFASに入社後は、財務DD、ストラクチャー構築支援、財務モデリング支援、PMI支援、株式価値評価、無形資産評価、事業再生支援(私的整理・法的整理)等の幅広い業務を担当。慶應義塾大学商学部卒業。
神原(クリフィックスFAS):私は2010年に会計士試験に合格してあずさ監査法人に入社し、金融監査を担当していました。アドバイザリーにも少し関わっていましたが、FASという意味では経験がないまま2017年にクリフィックスFASに転職しています。
クリフィックスFASは、クリフィックスという約25年の歴史がある中堅税理士法人を母体とするグループ会社の1社です。
手塚(公認会計士ナビ):監査法人6年目に転職されたんですね。監査法人に残ってマネージャーやパートナーを目指すという選択もあり得たかと思いますが、どうして転職されたのですか?
神原(クリフィックスFAS):転職したときは上場会社のインチャージを担当して2年経ったころで、ちょうどアシスタントマネジャーに昇進したタイミングでした。
監査を学びきったなんて到底言えませんが、一方で飽きがきていたのも事実です。成長スピードがちょっと停滞気味でしたし、このまま残っていても学びはあると思いましたが、新しいことにチャレンジしたほうが20代後半をもっと面白く過ごせるのではないかと、転職を決意しました。
左から手塚、片寄さん、神原さん
どうやって見分ける? 独立系FASの専門領域
手塚(公認会計士ナビ):私は会計業界専門のエージェントのため数十社のFAS提供事務所とお付き合いがあって、各社の評判をあちこちから聞いています。
その中から、業界の中でも今日は少数精鋭で品質の高いとの評判を聞く事務所2社にお声がけしました。大手ファームは大手ファームで素晴らしいのですが、今日は少人数でどのように専門性を発揮しているのか、聞かせてください。
ではJ-TAPさんから、簡単にサービス内容を教えてください。
片寄(J-TAP):J-TAPは事業再生やM&Aや税務がメインサービスに提供しています。
事業再生のクライアントは売上高10億円~数十億円程度の中堅/中小企業が多いですね。業務比率は、再生、M&A、税務が概ね同じ割合、メンバーは19名+非常勤数名です。
J-TAPの事業再生案件の特徴は、経営面まで支援してPLを改善させることです。会計士が再生案件に関わる際には、事業・財務面を整理し事業計画を作成して終わりということも多く、歯がゆさを感じていました。これも独立しようと思った理由のひとつでもあります。
私は、一時的な事業財務リストラだけではなく、中長期的にPLが黒字になるような体制をつくっていくことが、中小企業の事業再生の本質だと思っていています。そのため、事業計画の実行フェーズにおいて、中小企業の社長に寄り添って、PLの改善に主眼を置いていることが、J-TAPの事業再生の特徴です。
神原(クリフィックスFAS):クリフィックスFASは、主にM&Aと事業再生の仕事を請けています。
WEBサイトでは「トランザクション・アドバイザリー」「バリュエーション」「リストラクチャリング」と書いているのですが、端的に整理すると、トランザクション・アドバイザリーとバリュエーションがM&A、リストラクチャリングが再生です。基本的には財務・会計・税務領域に絞ったサービスを提供しています。
神原(クリフィックスFAS):これはFASに興味があって、今後独立系のファームを調べる方へのアドバイスにもなると思いますが、M&Aは大きく、①オリジネーション、②エグゼキューション、③PMIという3つのフェーズに整理されます。
①オリジネーションというのはいわゆるFAで、M&Aの案件を作り、企業の売り手と買い手をマッチングすることです。案件が出来上がったら、デューデリジェンスやバリュエーションといった② エグゼキューションをしていきます。案件がクロージングしたら ③ PMIをしていくという流れです。
FASに興味がある方は、各事務所が①〜③のどこを主眼にしているかを調べるといいかと思います。
例えば弊社は、オリジネーションは基本的にはやらないのが特徴です。
確かにオリジネーションは、会計士のスキルを活かせる分野ですが、伝統的には投資銀行やM&A仲介が強い領域です。なので、クリフィックスFASとしては、会計士が最もバリューを発揮できるエグゼキューションやPMIに業務を絞っている、というわけです。
手塚(公認会計士ナビ):クリフィックスFASは②で、PPA(編注:Purchase Price Allocation、取得原価配分。ここでは特に「無形資産の評価」の意味合いで使っています)などにも対応されていますよね?
神原(クリフィックスFAS):はい。バリュエーションと一言で言いましたが、投資銀行や証券会社がやるような株式価値評価はもちろん、会計的なPPAやのれんの減損テストなどにも対応しています。こういった案件は最近増えていますね。
手塚(公認会計士ナビ):FASをやる上で、ファームとして関与する領域はどのように絞っているのでしょうか。広くしたほうが請けられる案件は増えますし、逆に専門性を高めればその分野で存在感を高められるかと思います。
片寄(J-TAP):J-TAPの場合、M&Aについては、ビジネス面からも手伝いたいという私の思いもあって、②エグゼキューション(財務デューディリジェンス、バリュエーション)や③PMIだけではなく、①オリジネーションからやっていますし、事業再生は会計財務だけを扱うのではなく、会社のビジネス全体を本質的に改善させたいと考えています。
我々は「合理ではなくて非合理を追求しよう」と言っているのですが、「ここまでがスコープだから、ここからはやらない」というスタンスではなく、プロジェクト全体の成功のためにお客さんに寄り添うようにしてきました。
何が楽しいと思うかは人それぞれだと思いますが、私はクライアントとの距離感が縮まったり、案件の成功に占める自分たちの存在価値が大きくなると、その仕事は楽しいと感じます。そういった楽しい範囲で仕事をしているというイメージでしょうか。
神原(クリフィックスFAS):クリフィックスFASとしては会計・税務・財務がカバー領域ですが、M&Aにしても事業再生にしても、会計や税務だけで全てが完結するなんてことは少なくて、どうしたってビジネスに影響は出てくる。そういう意味では会計・税務・財務をスコープにするといっても、M&Aや事業再生全体の専門家であるべき点には気をつけています。
話をまとめると、サービスラインとしては絞っているけど、いち専門家としては幅広く構えているというスタンスですね。
独立系FASはどのように案件を獲得している?
手塚(公認会計士ナビ):ここまで専門領域の話をしてきましたが、案件獲得の話も聞かせてください。
J-TAPさんは十数人規模、クリフィックスFASさんも単体では十数名の規模で、決して大規模ファームというわけではないですが、両社ともクライアントの中には名だたる上場企業や金融機関も名を連ねられています。仕事はどういうルートで獲得しているのでしょうか。
片寄(J-TAP):M&Aも事業再生も、金融機関からの紹介が多いですね。
M&Aに関しては証券会社やファンドから。事業再生は地銀や、県ごとにあって中小企業の事業再生を支援する「中小企業活性化協議会」から依頼をいただくことも少なくありません。メンバーに投資銀行やBIG4出身者や大手再生/戦略コンサル出身者がおり、知識や経験が十分だというのは大前提として、お客様に柔軟に寄り添う姿勢も安心材料になって、ご依頼いただいているのかなと思います。
神原(クリフィックスFAS):クリフィックスFASは、リピートの依頼が多いですね。
片寄さんが言っていた中小企業活性化協議会もありますし、PEファンドは年中M&Aを検討しているのでそこからの案件も多いです。積極的にM&Aをしている上場会社からもよく案件をいただきますね。
先ほど話に出たPPAやバリュエーション系の案件は、監査法人からの紹介も少なくありません。
手塚(公認会計士ナビ):監査法人からも紹介があるんですね。
神原(クリフィックスFAS):監査も年々厳しくなっていることもあってか、(PPAに限らず)事業会社にバリュエーションレポートを求めることが増えているみたいです。実際、私達の元にも「監査法人から言われた」といった事業会社からの相談も増えています。
手塚(公認会計士ナビ):両社とも紹介が多いようですね。
紹介だから断りにくいことはないですか? 一歩間違えると、スコープ外のことにも対応しなければならなく、薄利で忙しいなんてことになりそうな気もします。
片寄(J-TAP):スコープ外のことをお願いされるケースは確かにあります。
紹介先やクライアントとの中長期的な関係や依頼内容なども総合的に考慮して、対応することも多いです。もちろん、別途お見積もりさせて頂くこともありますが。例えば、事業再生であれば、「本来スコープ外ではありますが、社長は頑張っているし僕らも一緒に再生させたいと思っているので、そのくらいはやりますよ」といってやってしまうこともありますね。
手塚(公認会計士ナビ):上手いですね(笑)。
大手と独立系で異なる? FASが欲しがる人材像
手塚(公認会計士ナビ):小規模なファームの大変な部分を聞かせてください。
少数精鋭ということは即ち、優秀な人を中途採用する必要があるということで、採用面で苦労している会社も多いように感じています。少数精鋭のファームでは、どのような方を求めていますか?
片寄(J-TAP):J-TAPは、会計士ではFAS出身者も採用しますが、監査法人出身の3〜5年目程度の若手を積極的に採用しています。
採用のポイントはずばり「素直さ」。つまり、人が言ったことをちゃんと聞いて理解すること、理解した上で行動に移すこと、結果が出るまで行動し続けられそうかを採用では見ています。J-TAPはクライアントの成長はもちろん、我々自身も成長していきたいと考えており、そのために必要な最大の要素が素直さだと思っているからです。
神原(クリフィックスFAS):確かに、素直さは大事ですね。
監査とFASを含めたアドバイザリーは近いようにみえて、実は全然違う領域。思考の体系が違うんです。例えばデューデリジェンスで行う増減分析は監査と似ているので、ともすれば自分の監査時代の流儀を押し通そうとしちゃうんですよね。でも必ずしも監査の手法がデューデリジェンスで使えるわけではありません。その違いを学ぶために必要なのが素直さです。
例を挙げると、最近は監査法人の監査調書も全部電子化されているので、デスクトップ上での作業に慣れている人も多いかもしれませんが、体系を理解するためには資料を印刷して、読み込んで、必要なことを愚直にひとつずつ書き出していくことなんかも、有効なんですね。そういうアドバイスを聞いたときに、素直にやる人は実力がすぐ伸びるし、自分流でやろうとする人は伸び悩んでしまうと思います。
神原(クリフィックスFAS):またクリフィックスFASでは「フットワークの軽さ」も大事にしています。
我々はまだ小さな組織なので、与えられた仕事だけに満足してほしくはありません。大規模法人でも同じことが言われるかもしれませんが、大企業だと1人稼働していなくても全体への影響は大きくないじゃないですか。でも少人数の組織だと、たとえ未経験の新人でも1人の稼働が落ちると全体への影響が非常に大きいんです。
スタートアップマインドに近いかもしれませんが、やはり自分から仕事を見つける、自分から聞きに行くといったフットワークの軽さは、独立系では特に大事だと思っています。
手塚(公認会計士ナビ):ありがとうございました。
最後に、FASに興味のある若手会計士のみなさんにアドバイスをお願いします。
片寄(J-TAP):最近の若手会計士は頭が良く真面目な方が多くて、まず考えて行動するという癖がついている人が非常に多い印象があります。もちろん、それは非常に大事なことです。
一方で、神原さんからフットワークの軽さという話があったように、考えないでチャレンジする、飛び込んで見るというのも大事かなと思っています。私が独立するときもそんな感じでした。
J-TAPでは絶賛採用中ですので、そういったチャレンジングな方はぜひお越しください(笑)。
神原(クリフィックスFAS):弊社も絶賛募集中なので宣伝すると(笑)、「FASは面白いぞ」と皆さんにお伝えしたいです。
昨今、会計士のキャリアの多様化が進んでいますが、FASで学んだ知見は、色々なところに活かせます。
例えばスタートアップのCFOというキャリアを選んだときも、単に会計・監査をやってきましたというよりもファイナンスの知見もある人の方が重宝されますし、ビジネスサイドに行くにしても、その足がかりとしては非常にいい勉強になる分野かと思っています。FASで働くといっても、BIG4や様々な独立系、色々なファームがありますが、もしクリフィックスFASが気になった方がいれば、会いに来てもらえたら嬉しいです。
手塚(公認会計士ナビ):今日は独立系FASの領域の選び方や人材の要件など、色んなことを聞かせていただき勉強になりました。
片寄さん、神原さん、ありがとうございました。
片寄・神原:ありがとうございました。
ゲスト全員と。左から2、5、6番目が手塚、神原さん、片寄さん
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「独立」「上場メガベンチャー」「ソーシャルビジネス」「独立系ファーム~監査・税務・FAS~」といった分野で活躍する公認会計士の方々にお話を伺い、みなさんとの交流の機会をお届けする予定です。みなさまのご参加お待ちしております!