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今回の事例
A社は上場を目指していたが、上場直前期において経理部のB課長が急遽退職することとなった。B課長は長年A社で経理業務を行っており、上場準備のキックオフから経理課長を務めており、実務面で中心的な役割を担っていた。A社の経理部は経理部長、B課長、担当者4名という人員である。
会社としては、B課長の後任を募集し、後任が決まるまでは経理部長が課長を兼任すること考えている。
上場審査への影響
新規上場企業の多くは平均勤続年数が2~3年であるケースが多く、人材の流動性が高いことから、上場準備の過程で経理の管理職が退職することは珍しいことではありません。
その後の人の補充ができ、実務が退職前と同様に運用できれば、上場審査上もさほど問題にならないようにも思えます。
しかし、上場審査上は、上場後に同様の事象が起きた場合でも、上場企業としての経理体制が維持されうるかを判断するため、B課長が退職した後に、A社どのような対応を行ったかについて質問がなされる可能性があります。
どのように対応するか
上場直前期は、上場後と同様のスケジュールで決算及び開示資料の作成を行うことが求められます。そのため、B課長の退職後は早急に決算体制を再度構築する必要があります。
事例のように、経理部長が課長の業務を兼任するとなると、部長は2人分の仕事をこなすことになり、相当な困難が伴うことになります。また、減損会計や税効果会計などの見積り項目に代表される、高度な判断を伴う経理処理については、経理課長が資料を作成し、部長が承認していたケースも考えられます。
そのため、通常であれば、これまで経理部長及び課長が行っていた業務を他の担当者に分散させるなど、業務分担の見直しを行う必要があります。そして、上場審査において質問がされた場合も、どのように経理体制の見直しを行い、決算体制を維持したかの説明ができるようにする必要があります。
また、後任の経理課長が適時に見つかるかという問題も生じます。最近は、経理人材についても人手不足であり、特に管理職の採用は困難になるケースが多いです。特にベテランであったB課長の後任を見つけるのは困難を伴います。そのため、短期間で適切な人材が確保できないまま、上場申請期を迎えてしまうことも考えられます。
そのような場合には、他部署から経理部への異動や、経理担当者を課長に昇格させるなど、社内の人材をで経理課長に選任することも検討する必要があります。その場合にも、経理課長に適切な人物を選任したことが説明できるようにする必要があります。
退職者への対応
上場審査において、経理課長の退職理由についても質問されることがあります。上場直前期に入り、上場が視野に入っていた最中で、B課長のようなベテラン社員が退職したとなると、組織上、何か問題を抱えていなかったのかという視点から質問がなされます。
会社としても、B課長と面談を行うなどして、退職した原因について把握し、現状の体制に問題がないかを検討する必要があります。例えば、経理実務がB課長任せとなり、業務負荷が高すぎたことが原因であれば、後任の経理課長も短期間で退職してしまう可能性があります。
退職者の退職理由を把握して、組織上の問題が判明したら、これを機に経理体制の見直しのきっかけにすることも重要と考えられます。
また、退職者とはわだかまりを残さないことが必要です。近年みられるのが、上場直前になって、取引所、証券会社、監査法人などに、過去に会社に所属していたと思われる人物からの投書が届くことがあります。例えば、経理であれば、「粉飾を行っている」などの情報が提供され、内容に具体性がある場合は、会社に調査を要求されることがあります。
調査は一定の期間を要するため、それにより上場が延期になる可能性もあります。
だからというわけではないですが、これまで共に上場を目指し、会社を成長させてきた仲間とは、良好な関係を継続したまま見送りたいものです。